東海の企業が経営数字から人事戦略を組み立てる実践アプローチ
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東海の企業が経営数字から人事戦略を組み立てる実践アプローチ

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東海の企業が経営数字から人事戦略を組み立てる実践アプローチ

「人事の仕事は数字じゃない、人の問題だ」——かつて、ある企業の人事部長がこう言っていました。10年前の話です。

今、同じ方に会うと、こう言います。「数字で語れない人事は、経営者に相手にされない」。

私はこれまで500社以上の企業の人事に携わってきましたが、人事が「経営のパートナー」として認められるかどうかは、「経営数字で人事を語れるか」にかかっていると痛感しています。東海地方の企業、特に製造業においては、この傾向が顕著です。なぜなら、東海の経営者は「数字に厳しい」からです。トヨタ生産方式の影響もあり、「改善を数字で証明する」文化が根づいている地域で、人事だけが「感覚」で語ることは許されません。

しかし、経営数字から人事戦略を組み立てるという発想は、まだ多くの中小企業の人事担当者にとって馴染みが薄いのも事実です。この記事では、東海地方の企業が実践できる「経営数字起点の人事戦略」の組み立て方を、具体的なステップとエピソードを交えて解説します。


なぜ「経営数字」から人事を考えるのか

最初に、「経営数字から人事を考える」ことの意味を明確にしておきましょう。

人事は「事業を伸ばすため」に存在する

人事の仕事は、採用、教育、評価、労務管理——多岐にわたります。しかし、これらの活動の究極の目的は、「事業を伸ばすこと」です。良い人材を採用し、育て、活かすことで、事業の成長に貢献する——これが人事の存在意義です。

であるならば、人事の活動は事業の目標から逆算して設計されるのが自然です。「今年の売上目標を達成するために、どんな人材が何人必要か」「3年後の新規事業を実現するために、今からどんなスキルを育成しておくべきか」——こうした問いに答えるためには、経営数字の理解が不可欠です。

経営者との対話を「数字」で行う

東海地方の製造業の経営者は、日々、売上、原価、利益、稼働率、歩留まり——といった数字と向き合っています。この経営者に対して、人事が「社員のモチベーションが下がっています」「離職率が高いです」と報告しても、「で、いくら損しているの?」「どう改善すると利益にどれだけ貢献するの?」と返されます。

経営者と同じ「数字の言語」で会話できることが、人事が経営のテーブルに着くための条件です。


経営数字の基本:人事担当者が知るべき指標

人事担当者が最低限理解しておくべき経営数字を整理します。

1. 売上高と人件費率

人件費率(人件費÷売上高×100)は、企業経営の最も基本的な指標の一つです。製造業の場合、一般的に25〜40%が適正範囲とされます。

この数字を知ることで、「1名採用すると、人件費率がどう変わるか」「人件費をこれだけ増やすと、売上をいくら伸ばす必要があるか」という議論が可能になります。

春日井市の金属加工メーカーでは、人件費率が35%でした。経営者は「これ以上人件費を増やせない」と考えていましたが、人事担当者が「1名採用すれば年間800万円の売上増が見込める。人件費増は450万円なので、人件費率はむしろ改善する」という試算を提示したことで、採用が実現しました。

2. 1人あたりの売上高・付加価値額

従業員1人あたりの売上高(売上高÷従業員数)は、生産性の基本指標です。より精密には、1人あたりの付加価値額(粗利益÷従業員数)を見ることで、人材の「稼ぐ力」が把握できます。

この指標を部門別に算出することで、「どの部門の生産性が高いか/低いか」「どこに人材を重点配置すべきか」という戦略的な判断が可能になります。

3. 採用コストと離職コスト

中途採用1名あたりのコスト(求人広告費+人材紹介手数料+面接工数+教育費)、離職1名あたりのコスト(採用費の再発生+引き継ぎ損失+残業増加+教育の無駄)——これらの数字を把握している人事担当者は、意外に少ない。

名古屋市の機械メーカーの人事課長は、初めて離職コストを試算したとき、「1名の離職で約180万円のコストが発生している」と知って驚いたそうです。「離職率を5ポイント下げるだけで、年間900万円のコスト削減になる。定着施策に500万円投資しても、十分にペイする」——この数字が、定着施策への投資を後押ししました。

4. 労働分配率

付加価値額に対する人件費の割合が労働分配率です。製造業では50〜60%が目安とされます。この数字が高すぎると、設備投資や研究開発への原資が不足し、低すぎると人材への投資が不十分で競争力が低下する——バランスが重要です。

5. 残業時間と生産性の関係

残業時間が増えると、一見「たくさん働いている=生産性が高い」ように見えますが、実際には疲労による品質低下、ミスの増加、離職リスクの上昇——といったマイナス効果が発生します。

「月40時間の残業を月20時間に減らした場合、生産量はどう変わるか」——こうしたシミュレーションを行うことで、「残業を減らしても生産性は維持できる(あるいは向上する)」というケースが見つかることがあります。


経営数字から人事戦略を組み立てる5つのステップ

ここからは、具体的なステップを解説します。

ステップ1:事業計画を理解する

人事戦略の起点は、事業計画です。「今年の売上目標はいくらか」「どの事業を伸ばし、どの事業を縮小するか」「3〜5年後の事業ポートフォリオはどうなるか」——こうした事業計画を、人事担当者が深く理解することが第一歩です。

私が人事コンサルティングに入る際、最初に行うのは「中期経営計画の確認」です。しかし、中小企業の中には、成文化された中期経営計画がない企業も多い。その場合は、経営者に直接ヒアリングして、「3年後にどうなりたいか」をできるだけ具体的に言語化してもらいます。

岡崎市の部品メーカーの人事担当者は、毎月の経営会議に参加し、売上計画、受注状況、設備投資計画——を把握するようにしています。「経営の数字がわかると、『なぜ今この人材が必要なのか』が自分の中で腹落ちする。だから、採用や育成の施策を自信を持って提案できるようになった」と話しています。

ステップ2:人員計画を数字で設計する

事業計画から逆算して、「いつ、何名、どんな人材が必要か」を数字で設計します。

必要人員数の算出方法

売上計画から、各部門の業務量を推定する。業務量から、必要な人員数を算出する(業務量÷1人あたりの処理能力)。現在の人員数と必要人員数の差分が、採用・育成の対象となる。

退職者の予測(年齢別の退職率、過去の退職実績から推定)も組み込み、「自然減」を考慮した計画にすることが重要です。

人員計画のタイムライン

必要人員数が明確になったら、「いつまでに何名確保するか」のタイムラインを設計します。採用のリードタイム(求人掲載から入社まで3〜6ヶ月)、育成期間(入社から戦力化まで6〜12ヶ月)を逆算して、「今から動き始めないと間に合わない」というスケジュール感を経営者と共有します。

ステップ3:人件費シミュレーションを行う

人員計画を実行した場合の人件費の変動をシミュレーションします。

新規採用の人件費増加

採用人数×年収×社会保険料率(約15%)で、年間の人件費増加額を算出。さらに採用コスト(媒体費、紹介手数料、面接工数)を加算。

残業代の変動

人員が増えれば、1人あたりの残業時間が減少する可能性がある。残業代の削減効果も試算に含めます。

売上への貢献額との比較

新規採用による人件費増加と、その人材が生み出す売上貢献額を比較し、投資対効果を明確にします。

瀬戸市の陶磁器メーカーでは、人事担当者がExcelで「人件費シミュレーションシート」を作成し、経営者に毎月提示しています。「3名採用した場合」「2名採用+残業で対応した場合」「採用せず受注を断った場合」——3つのシナリオを数字で比較することで、経営者が合理的な判断を下せるようになりました。

ステップ4:人事施策のKPIを設定する

人事施策の効果を測るために、KPI(重要業績評価指標)を設定します。

採用に関するKPI

応募数、面接実施数、内定承諾率、採用単価(1名あたりの採用コスト)、入社後6ヶ月の定着率。

育成に関するKPI

研修実施時間、資格取得者数、1人あたりの生産性(入社後6ヶ月時点/12ヶ月時点)、多能工化率。

定着に関するKPI

離職率(全体/入社3年以内)、従業員満足度スコア、1on1実施率、有給休暇取得率。

これらのKPIを定期的(月次or四半期)に測定し、施策の効果を検証するPDCAサイクルを回すことが、経営数字起点の人事戦略の肝です。

ステップ5:経営会議で「数字」を報告する

人事の活動とその成果を、経営会議で「数字」として報告する習慣を確立します。

「今月の採用状況:応募12名、面接8名、内定2名、採用単価95万円」「四半期の離職率:4.2%(前年同期5.8%から改善)」「改善提案による年間コスト削減効果:推定800万円」

こうした数字での報告が、人事の活動を経営者に「見える化」し、人事への信頼と投資を引き出します。


東海の製造業での実践エピソード

経営数字起点の人事戦略を実践して、成果を上げた企業の事例を紹介します。

事例1:豊田市の自動車部品メーカー(従業員120名)

問題:毎年15名程度が退職し、採用が追いつかない。人手不足で残業が増加し、さらに退職が増える悪循環。

アプローチ:離職コストを試算(年間約2,700万円)。離職の主原因を分析(入社後のフォロー不足、キャリア不透明感)。定着施策に年間500万円を投資(メンター制度、キャリア面談、スキルマップ導入)。

結果:2年間で離職率が18%から8%に改善。離職コストが年間約1,200万円に減少(差額1,500万円)。投資500万円に対して3倍のリターン。

事例2:四日市市の化学メーカー(従業員80名)

問題:技術者の採用が困難で、新規受注を断るケースが増加。年間約5,000万円の機会損失。

アプローチ:1名の技術者採用による売上貢献額を算出(年間約1,500万円)。採用チャネルの費用対効果を分析し、リファラル採用に注力。採用ブランディングに200万円を投資。

結果:年間の技術者採用数が1名から4名に増加。機会損失が5,000万円から1,000万円に減少。採用単価も人材紹介経由の半分に。


人事が「経営の言語」を話すために

経営数字から人事戦略を組み立てるためには、人事担当者自身のスキルアップも必要です。

財務諸表の基本を学ぶ

損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書——これらの基本的な読み方を学ぶことで、経営者と同じ土俵で会話できるようになります。

データ分析の基礎スキル

Excelでの基本的なデータ分析(集計、グラフ作成、シミュレーション)ができると、人事データから示唆を引き出す力が格段に上がります。

経営者との対話の機会を増やす

数字のスキルだけでなく、経営者の考え方や事業の方向性を理解することも重要です。経営会議への参加、経営者との定期的な1on1、事業部門との協働プロジェクト——こうした機会を通じて、「事業のことがわかる人事」になっていきます。


「両利きの人事」へ

最後に、この記事の核心をお伝えします。

経営数字から人事を考えることは、「人を数字として扱う」ことではありません。むしろ逆です。経営数字という共通言語を使うことで、「なぜこの人材投資が必要なのか」「この施策が事業にどう貢献するのか」を経営者に正確に伝え、人への投資を引き出すことが目的です。

「人を大切にする心」と「経営数字で語る力」——この両方を持つ人事が、「両利きの人事」です。

東海地方は、数字に厳しい経営者が多い地域です。その経営者と真正面から向き合い、数字で人事の価値を証明し、事業の成長に貢献する——そんな人事のあり方が、東海の企業の未来を切り拓くと信じています。

人への投資は、数字で検証でき、数字で成果を示せるものです。感覚ではなく、数字で。情緒ではなく、論理で。そして数字と論理の先に、人が活き、事業が伸びる組織がある——この循環を作ることが、経営数字から人事戦略を組み立てるということの本質です。


本記事は、東海地方の企業における人事課題を長年支援してきた経験に基づいて執筆しています。個別の人事課題についてのご相談は、人事のプロ実践講座にてお受けしています。

人事のプロ実践講座の詳細はこちら人事図書館で最新の人事知見を学ぶ

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