
東海の企業が「人事制度のスリム化」で運用負荷を下げる方法
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東海の企業が「人事制度のスリム化」で運用負荷を下げる方法
「評価シートの項目が多すぎて、評価者も被評価者もうんざりしている。制度を作った当時は意味があったのかもしれないが、今となっては形骸化しているものが多い」——豊田市の自動車部品メーカーの人事部長が、自社の人事制度の課題をこう語りました。東海地方の中小企業では、過去に外部のコンサルタントに依頼して構築した人事制度が、年月を経てどんどん複雑化し、運用負荷が膨らんでいるケースが少なくありません。
私はこれまで500社以上の企業の人事に携わってきましたが、人事制度は「作ること」よりも「運用すること」の方がはるかに難しいという現実を見てきました。どれほど精緻な制度を設計しても、運用が回らなければ意味がありません。そして、運用が回らない最大の原因は、制度が複雑すぎることにあります。
人事制度のスリム化は、制度の質を下げることではありません。「本当に必要な要素は何か」を見極め、不要な複雑さを取り除き、制度の本質的な機能を維持しながら運用負荷を下げる取り組みです。制度をシンプルにすることで、むしろ制度の実効性が高まるケースは多いのです。
岡崎市の精密機器メーカー、従業員220名。評価項目を30項目から12項目に削減し、等級制度を8段階から5段階に簡素化。評価にかかる工数が約40%削減され、評価結果への社員の納得度が向上。管理職が評価面談に十分な時間をかけられるようになり、部下の成長支援につながっています。
なぜ人事制度は複雑化するのか
原因1:「網羅性」への過信
人事制度を設計する際、「漏れがないように」とあらゆる要素を盛り込みがちです。評価項目を増やし、等級の段階を細かくし、手当の種類を増やし、例外ルールを追加する。こうして制度は際限なく膨らんでいきます。
しかし、項目が多ければ評価の精度が上がるわけではありません。評価項目が30あっても、評価者が一つひとつを丁寧に評価することは現実的に困難です。結果として、全ての項目が「3(普通)」に収束し、制度が形骸化します。
原因2:過去の問題への対症療法
「以前、この部分でトラブルがあったから、ルールを追加した」——人事制度は、過去の問題への対応策が積み重なって複雑化していく傾向があります。一つのトラブルに対して一つのルールを追加する。10年続ければ、ルールだらけの複雑な制度が出来上がります。
名古屋市のメーカーでは、評価制度のマニュアルが50ページに及んでいました。その内容を精査したところ、過去のトラブル対応で追加されたルールが全体の40%を占めており、そのトラブル自体は既に再発の可能性が低いものが大半でした。
原因3:外部コンサルタントの設計した制度
外部のコンサルタントに人事制度の設計を依頼した場合、理論的には精緻で美しい制度が出来上がることがあります。しかし、その制度を日常的に運用するのは社内の人事担当者と管理職です。コンサルタントがいなくなった後、運用の負荷に耐えられず、制度が形骸化するケースは少なくありません。
原因4:「変えることへの恐怖」
一度作った制度を変えることには抵抗感があります。「社員に説明するのが大変」「変更によって不利益を被る社員が出るかもしれない」——こうした懸念から、不要になったルールや項目も残り続け、制度はますます肥大化していきます。
経営数字で制度スリム化の効果を測る
評価工数の削減
評価項目が30項目の場合、1名の評価に管理職が30分〜1時間かかるとします。部下が10名いれば、評価だけで5〜10時間。評価面談も含めれば、さらに10時間以上。これが半期に1回行われるとすると、管理職は年間30〜40時間を評価業務に費やしていることになります。
評価項目を12項目に削減すれば、評価工数は半分以下になります。この時間を部下との日常的なコミュニケーションや、チームの業績向上のための活動に充てることで、組織全体の生産性向上につながります。
浜松市の機械メーカーでは、評価業務にかかる管理職の時間を試算したところ、管理職30名の合計で年間約1,200時間が評価業務に費やされていました。制度のスリム化により、この時間を約500時間に削減。700時間分の管理職の時間が、より生産的な活動に振り向けられました。
人事部門の運用工数の削減
制度が複雑であるほど、人事部門の運用工数も増えます。評価結果の集計、昇格判定の作業、給与改定の計算、社員からの問い合わせ対応——こうした業務の工数は、制度の複雑さに比例して増加します。
社員の理解度向上
制度がシンプルであれば、社員が制度を理解しやすくなります。「何をすれば評価されるのか」「どうすれば昇格できるのか」——こうした問いに対する答えが明確であれば、社員のモチベーション向上につながります。
四日市市の化学メーカーでは、制度のスリム化後に社員アンケートを実施したところ、「人事制度の内容を理解している」と回答した社員の割合が32%から71%に上昇しました。
スリム化の対象:どこを削るか
評価制度のスリム化
評価項目の削減
評価項目は10〜15項目が適切です。それ以上に増やしても、評価の精度は上がりません。むしろ、項目が多すぎると「全部3」のような中心化傾向が強まり、メリハリのある評価ができなくなります。
削減の方法は、まず現在の評価項目を全て書き出し、「この項目を外したら、何か問題が起きるか」を一つずつ検討します。多くの場合、他の項目と重複しているもの、実質的に評価に影響していないもの、特定の職種にしか適用されないものが見つかります。これらを統合・削除します。
評価段階の見直し
5段階評価を7段階に細かくしても、評価者の判断力は追いつきません。5段階で「3と4の違い」を判断するのも難しいのに、7段階で「3と4と5の違い」を明確にすることは現実的ではありません。5段階評価で十分です。
等級制度のスリム化
等級の段階数
等級が8段階、10段階ある企業がありますが、中小企業であれば5〜6段階で十分です。等級が多すぎると、各等級の差が小さくなり、「昇格しても何も変わらない」という感覚を社員に与えます。
静岡市の食品メーカーでは、9段階の等級を5段階に再編しました。各等級の役割と期待される能力を明確にし、昇格の意味を大きくしたことで、社員の昇格へのモチベーションが向上しました。
等級要件の簡素化
等級ごとの要件が細かく規定されすぎていると、昇格判定が複雑になります。各等級に求められる役割と能力を、シンプルな言葉で3〜5項目にまとめることをお勧めします。
手当制度のスリム化
手当の種類の見直し
手当が10種類以上ある企業は、手当の統廃合を検討すべきです。手当が多すぎると、給与明細が複雑になり、社員が「自分の給与はどう決まっているのか」を理解しにくくなります。
手当のスリム化の方向性は、「対象者が少ない手当」「金額が小さい手当」「基本給に統合できる手当」を洗い出し、統合または廃止することです。ただし、手当の廃止は社員にとって不利益変更になる可能性があるため、基本給への組み込みなど、総額が変わらない形で調整することが重要です。
一宮市のアパレル企業では、12種類の手当を5種類に統合しました。廃止された手当の金額は基本給に上乗せする形で調整し、社員の給与総額は変わらないようにしました。給与計算の工数が大幅に削減され、社員からも「わかりやすくなった」という声が上がりました。
スリム化の進め方:5つのステップ
ステップ1:現状の制度を可視化する
人事制度の全体像を、一枚の図にまとめます。等級の数、評価項目の一覧、手当の種類と金額、昇格要件、賞与の計算式——全てを一覧にすることで、制度の複雑さが「見える化」されます。
この「見える化」の作業自体が、スリム化のヒントを与えてくれます。「この項目、誰も使っていない」「この手当、対象者が2名しかいない」——可視化すると、こうした事実が浮かび上がります。
ステップ2:運用の実態を把握する
制度の設計と運用の実態にはギャップがあることが多いです。管理職へのヒアリングを行い、「実際に評価で重視している項目はどれか」「形骸化している項目はどれか」を確認します。
岐阜市の金属加工メーカーでは、管理職15名にヒアリングを行った結果、評価項目25項目のうち、「実際に評価で意味があると感じる」と回答されたのは8項目のみでした。残りの17項目は、「形式的に記入しているだけ」という状態でした。
ステップ3:スリム化の方針を決定する
現状把握の結果を基に、スリム化の方針を決めます。何を残し、何を削るか。判断の基準は「その要素が、社員の行動を望ましい方向に導いているか」です。制度の要素が社員の行動に影響を与えていないのであれば、その要素は不要です。
ステップ4:新制度の設計と移行
スリム化した新制度を設計し、既存の制度から移行します。移行にあたっては、社員への丁寧な説明が不可欠です。「制度が変わる」ということ自体に不安を感じる社員もいます。スリム化の目的と、社員にとってのメリット(評価がわかりやすくなる、評価面談に時間をかけてもらえるようになるなど)を明確に伝えることが重要です。
ステップ5:定期的な見直しの仕組み化
スリム化は一度やって終わりではありません。制度は時間とともに再び複雑化する傾向があります。年1回、制度の棚卸しを行い、不要な要素が増えていないかをチェックする仕組みを設けましょう。
スリム化で気をつけるべきポイント
不利益変更への配慮
手当の廃止や等級の統合は、社員にとって不利益変更となる可能性があります。給与の総額が下がらないよう、調整給の設定や基本給への組み込みなどの措置を講じてください。
管理職への支援
制度がシンプルになっても、管理職の評価力が向上するわけではありません。むしろ、項目が少なくなった分、一つひとつの項目に対する評価の質が問われます。評価者研修を併せて実施し、管理職の評価力を高めることが重要です。
経営者の理解を得る
人事制度のスリム化は、経営者の理解と承認なしには進められません。「制度をシンプルにすることで、管理職の負荷が下がり、本来の業務に集中できるようになる」「社員の制度理解が進み、モチベーション向上につながる」——経営者が関心を持つ効果を数字で示すことが有効です。
まとめ:シンプルな制度こそが、最も機能する制度
人事制度のスリム化は、制度の「手抜き」ではありません。「本当に大切なものを見極め、それに集中する」ための取り組みです。評価項目が少なくても、一つひとつの項目に真剣に向き合う方が、評価の質は高くなります。等級が少なくても、各等級の意味が明確であれば、社員のキャリアの方向性が見えやすくなります。
東海地方の中小企業にとって、運用負荷の高い複雑な制度を維持し続けることは、限られた人事リソースの浪費です。制度をスリムにし、運用の負荷を下げ、その分のエネルギーを社員との対話や組織づくりに向ける。これが、人事制度を「生きた制度」にするための近道です。
まずは、自社の人事制度を一覧にして「見える化」することから始めてください。そして、「この要素は、社員の行動を望ましい方向に導いているか」という問いを投げかけてみてください。その問いに「いいえ」と答えざるを得ない要素があれば、それがスリム化の第一歩です。
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