
外国籍社員も含めた職場のエンゲージメント——東海の製造業が直面するインクルージョン
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外国籍社員も含めた職場のエンゲージメント——東海の製造業が直面するインクルージョン
豊田市の工場近くの団地、岐阜の工業団地の周辺、浜松の住宅街——東海エリアのものづくりの町には、長年にわたって外国籍の人々が暮らし、製造業の現場を支えてきた。ブラジル・ペルーなどの南米系住民、フィリピン・ベトナム・インドネシア系の技能実習生・特定技能・永住者。国籍も言語も文化も多様な人々が、同じライン上に並んで働いている。
「インクルージョン(inclusion)」という言葉は、東京のHRカンファレンスでよく聞くが、東海の製造業では「理念」より「現実」として毎日直面している問題だ。外国籍社員が職場になじんでいるか、孤立していないか、仕事の意味を感じているか——これはエンゲージメントの問題であり、定着率・生産性・安全性にも直結している。この記事では、東海の製造業における職場のエンゲージメントとインクルージョンの現実と、人事が取り組めることを整理する。
1. 東海の製造業における外国籍社員の実態——数字と現場感
東海エリアの外国籍住民の多さは、全国的にも際立っている。愛知県の外国人人口は約30万人(2024年時点)で東京に次ぐ全国2位。三重・岐阜・静岡を含めた東海4県全体では、製造業従事者に占める外国籍比率が特に高い工場・地域が多い。
特に豊橋市・豊田市・可児市(岐阜)・浜松市などは、南米系コミュニティが30年以上にわたって形成されてきた地域だ。1990年の入管法改正以降、日系ブラジル人・ペルー人が製造業の現場に大量に入り、世代を超えて地域に根付いている。彼らの多くは、もはや「出稼ぎ労働者」ではなく「地域社会のメンバー」として生活している。
一方で近年、技能実習制度(2024年に廃止・育成就労に移行)や特定技能制度によって、東南アジア・南アジアからの外国籍労働者が増加している。ベトナム・インドネシア・フィリピン・ミャンマー・インドなど、多様な国籍・文化・宗教的背景を持つ人々が製造現場に加わっている。
こうした多様性の中で、「職場のエンゲージメント」を一枚岩に語ることはできない。言語・文化・雇用形態・在留資格・家族構成——これらが異なる人々が同じ職場で働く環境において、「全員が意欲を持って働ける状態」を作ることは、単純ではないが、確かに人事の仕事だ。
2. エンゲージメントを阻む「見えない壁」——外国籍社員の視点から
外国籍社員のエンゲージメントを阻む要因は、給与や処遇だけではない。「見えない壁」が複数存在する。
言語の壁:日本語でのコミュニケーションが限られる外国籍社員は、「仕事の説明を理解できたか不安」「何か問題があっても上手く伝えられない」という状況に置かれやすい。指示を理解できないまま作業を続けることは、品質問題・安全問題にも直結する。
文化の壁:日本の職場文化——「空気を読む」「報告はまず上司に」「飲み会に参加して関係を作る」——は、文化的背景が異なる外国籍社員には「なぜそうしなければならないのか」が伝わりにくい。「礼儀がない」「コミュニケーションが悪い」という評価が、実は文化的な誤解から来ていることがある。
情報の壁:給与明細・就業規則・人事制度・評価基準・会社のニュース——これらが日本語でしか提供されていない場合、外国籍社員は「自分が何の基準で評価されているかわからない」「有休の取り方を知らない」という状態に置かれる。情報の不均衡は不満と不信の温床になる。
孤立の壁:休憩室で日本人グループと外国籍グループが分かれて座っている光景は、東海の製造業の現場でよく見られる。これは差別ではなく「会話のきっかけがない」「言語が違う」という現実から来ていることが多いが、放置するとエンゲージメントの分断につながる。
3. 日本人社員のエンゲージメントも視野に——インクルージョンは双方向
「外国籍社員への対応」を考えるとき、日本人社員の視点を忘れてはならない。
「外国籍の人が増えて、コミュニケーションが大変になった」「作業指示をうまく伝えられなくて困っている」という日本人社員の声も、エンゲージメントの問題だ。多様な職場環境に慣れていない日本人社員が「これは自分の問題ではなく会社の問題だ」と感じてモチベーションを下げることがある。
インクルージョンは「外国籍社員を受け入れる」という一方向の話ではない。**「多様なメンバーが一緒に働けるように、組織の仕組みと文化を整える」**という双方向の設計が必要だ。
日本人社員が多様な文化・言語背景を持つ同僚と働く上で必要なスキルを、人事が育成する視点も重要だ。「異文化コミュニケーション研修」「やさしい日本語の使い方」「非言語コミュニケーションへの理解」などを、現場管理職・チームリーダーに対して提供することで、「日本人側の対応力」も高められる。
4. インクルージョンの実践——人事が今すぐできること
インクルージョンを「理念」ではなく「実践」に変えるための具体的な取り組みを整理する。
やさしい日本語の活用:「やさしい日本語」とは、外国人や子ども、障害を持つ人など、日本語の読み書きが難しい人でも理解できるよう、短い文・簡単な語彙・具体的な表現で書いた日本語のことだ。作業手順書・安全規則・就業規則を「やさしい日本語」に書き換えるだけで、多くの外国籍社員の理解度が上がる。人事が専門知識なしでも取り組めるアプローチだ。
多言語でのコミュニケーション環境整備:重要な掲示物・就業規則・緊急連絡先・評価基準などは、ポルトガル語・タガログ語・ベトナム語・英語など、自社の外国籍社員が主に使う言語への翻訳を進める。翻訳ツール(DeepLなど)の活用と、地域の外国人支援団体との連携が有効だ。
通訳・橋渡し役の育成:バイリンガルの社員(たとえば日本語と ポルトガル語が話せる日系ブラジル人社員)を「コーディネーター」として育成・任命することで、現場でのコミュニケーションが格段にスムーズになる。この役割に対して、手当や評価を付与することが重要だ。
外国籍社員向けの相談窓口:「困ったことがあっても誰に言えばいいかわからない」という状況を防ぐために、人事部門に外国籍社員向けの相談窓口を設ける。多言語で相談できる体制があるだけで、安心感が生まれる。
5. エンゲージメントサーベイを「全員に」——外国籍社員の声を拾う仕組み
エンゲージメントサーベイを実施している企業でも、「外国籍社員が日本語のアンケートに答えられない」「回答率が低い」という問題が起きていることがある。
これを放置すると、「外国籍社員の声が組織に届いていない」という状態が続き、問題が見えないまま潜在化する。
解決策として、多言語版のサーベイを作成することが有効だ。全設問を複数言語に翻訳するのが難しければ、まず「職場の雰囲気」「上司との関係」「仕事の満足度」という5〜10問のミニサーベイを多言語で作ることから始める。
サーベイの実施タイミングにも工夫が必要だ。夜勤・交替勤務の多い製造現場では、「就業時間内にアンケートに答える時間を確保する」という配慮が、特に外国籍社員の参加率に影響する。
外国籍社員のサーベイ結果を日本人社員と分けて集計・分析することで、「特定の国籍・職場での課題が見える」ことがある。これを改善の起点にすることが、インクルージョンを前進させる。
6. 宗教・文化的配慮——東海の現場で人事が直面するリアル
インクルージョンを実践する上で、東京の人事担当者が見落としやすいが、東海の現場では切実な問題がある。それが宗教・文化的配慮だ。
たとえば:
- イスラム教徒のムスリム社員(インドネシア・マレーシア・バングラデシュ・パキスタン出身者に多い)は、礼拝の時間と方向・ハラール食の必要性・ラマダン期間中の断食という配慮が必要になる。食堂でのハラール対応、礼拝場所の確保といった問題は、製造現場では具体的に調整が必要だ。
- 南米系の社員は、日本のお盆・正月に相当する帰省の文化が異なる。「12月〜1月に一時帰国したい」という要望を、有給休暇・特別休暇の枠組みでどう対応するかは、シフト管理と組み合わせた検討が必要だ。
- ベジタリアン・ビーガンの社員への食堂対応も、多様な文化背景を持つ社員が増えると現実の課題になる。
こうした配慮は「特別扱い」ではなく、「多様なメンバーが力を発揮できる環境を作ること」だ。人事がこれらを「現場任せ」にせず、ガイドラインとして整備することが、インクルージョンの実践だ。
7. インクルージョンを経営数字で語る——定着率・生産性・採用コストへの影響
「インクルージョンに取り組む」という提言を経営者にするとき、「人に良いから」だけでは動いてもらいにくい。経営数字での説明が必要だ。
外国籍社員の定着率改善:インクルージョンが機能している職場は、外国籍社員の定着率が高い。仮に年間10名の外国籍社員が離職していて、その採用・育成コストが1名あたり50万円とすれば、年間500万円の損失が発生している。定着率を20%改善するだけで100万円のコスト削減になる。
品質・安全への影響:言語・文化的な理解不足による作業ミスや安全事故のコストは、見えにくいが大きい。インクルージョンの改善が「情報伝達の質の向上→ミスの減少→品質コストの削減」という経路で経営数字に反映されることを示せる。
採用競争力:「外国籍社員が働きやすい会社」という評判は、地域の外国籍コミュニティ内で広がる。口コミで「あの会社は良い」という評判が立てば、採用広告費をかけなくても外国籍求職者が集まる。
インクルージョンへの投資は、コストではなく「多様な人材を活かすための経営投資」として語ることが、東海の製造業人事に求められている。
まとめ——東海の製造業「インクルージョン」は現場の現実から
東海の製造業におけるインクルージョンは、東京の「多様性推進」とは文脈が違う。30年以上の歴史を持つ外国籍コミュニティと日々向き合いながら、現場で実際に機能する仕組みを作ることが求められる。
やさしい日本語・多言語対応・文化的配慮・エンゲージメントサーベイ——これらは全て「外国籍社員も日本人社員も、一緒に力を発揮できる職場」を作るための実践だ。その実践の設計者として人事が機能することが、東海のものづくりの現場を支える。
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