
東海の企業が「人事と現場の壁」を壊す方法
目次
東海の企業が「人事と現場の壁」を壊す方法
「人事が作った制度は、現場の実態とかけ離れている。現場のことをわかっていない人が作ったルールに、なぜ従わなければならないのか」——豊田市の自動車部品メーカーの製造ラインリーダーが、不満をぶつけてきた場面を今でも覚えています。一方で、人事側からは「現場は人事の施策に協力してくれない。人事のことを軽く見ている」という声が聞こえてきます。
私はこれまで500社以上の企業の人事に携わってきましたが、「人事と現場の壁」は、東海地方の中小企業で最もよく見られる組織課題の一つです。この壁があるために、人事施策が現場に浸透せず、現場の課題が人事に伝わらず、結果として人と組織の問題が放置される。
人事と現場の壁を壊すことは、人事施策の実効性を高め、組織全体の力を向上させるために不可欠です。壁を壊すには、人事側の努力も現場側の理解も、そしてその両者をつなぐ「仕組み」も必要です。
浜松市の機械メーカー、従業員220名。人事と現場の壁を壊す取り組みを2年間実施した結果、人事施策の現場浸透度が大幅に向上。評価制度の運用精度が上がり、社員の満足度が25%向上。現場起点の改善提案が3倍に増加しました。
なぜ人事と現場の間に壁ができるのか
原因1:人事が現場を知らない
中小企業の人事担当者は、入社以来ずっと人事部門にいるケースが多く、現場の業務を体験したことがないことも珍しくありません。製造の現場で何が起きているか、営業の最前線でどんな苦労があるか——こうした実態を知らないまま制度を設計すれば、現場にフィットしないのは当然です。
原因2:現場が人事の仕事を理解していない
現場の管理職や社員にとって、人事は「給与計算をする人」「採用の事務をする人」——つまりオペレーションの担当者として認識されていることが多いです。人事が組織の課題を解決し、社員の成長を支援する「戦略的な機能」であることが理解されていません。
原因3:コミュニケーションの不足
人事と現場の間で、日常的なコミュニケーションが不足していることが根本的な問題です。人事は管理部門のフロアに閉じこもり、現場は工場や営業先にいて、接点がほとんどない。接点がなければ、相互理解は進みません。
原因4:一方的な「上からの通達」
人事施策が「上からの通達」として現場に伝えられることが、壁を高くする大きな要因です。「新しい評価制度が導入されます。この書式で評価してください」——現場の意見を聞かず、一方的に導入されたルールに、現場は反発します。
名古屋市の商社では、新しい目標管理制度を導入した際、現場の管理職への事前相談なしに制度を決定し、メールで通知しました。現場からは猛反発があり、制度は1年後に有名無実化しました。
経営数字で壁を壊す効果を測る
人事施策の浸透度と効果
人事と現場の壁がなくなれば、人事施策が現場に浸透しやすくなります。評価制度の運用精度が上がり、研修の効果が高まり、採用活動における現場の協力が得られやすくなります。
離職率の改善
人事と現場が連携すれば、社員の不満やキャリアの悩みを早期にキャッチし、対処できるようになります。離職の予兆を見逃さず、早期に手を打つことで、離職率の改善につながります。
浜松市の機械メーカーでは、人事と現場の連携強化後、離職の予兆を早期発見するケースが増え、離職率が5ポイント改善しました。離職1件あたりのコストを150万円とすると、220名の企業で5ポイントの改善は年間約1,650万円の効果です。
改善提案の増加
人事と現場の壁が低くなれば、現場からの改善提案が人事に上がりやすくなります。「こういう研修が欲しい」「評価制度のここが使いにくい」——こうした現場の声が、人事施策の質を向上させます。
壁を壊すための7つの実践方法
方法1:人事担当者が現場に出る
人事担当者が定期的に現場を訪問し、現場の業務を見学し、現場の社員と対話する。これが最もシンプルで効果的な方法です。
月に1回、半日でも現場で過ごす時間を作りましょう。工場のラインに立ち、営業に同行し、現場の管理職とランチを共にする。この体験が、人事担当者の視野を広げ、現場への理解を深めます。
岐阜市の金属加工メーカーでは、人事担当者が月に2日、製造現場で作業補助を行っています。現場の作業を体験することで、「現場が何に困っているか」を肌で感じられるようになり、人事施策の現場適合性が格段に向上しました。
方法2:現場のキーパーソンを「人事のパートナー」にする
各部門に「人事のパートナー」となるキーパーソンを置きます。このキーパーソンは、人事と現場の橋渡し役を務めます。人事からの情報を現場に伝え、現場の声を人事にフィードバックする。
キーパーソンには、現場での信頼が厚い中堅社員が適任です。管理職よりも、現場の実態をよく把握しており、一般社員からの信頼も得ている社員を選びましょう。
方法3:制度設計に現場を巻き込む
新しい人事制度を導入する際には、設計の段階から現場の管理職や代表的な社員を巻き込みます。現場の意見を反映した制度は、現場の理解と協力を得やすいです。
具体的には、制度設計の検討チームに現場の管理職を参画させる。素案の段階で現場にフィードバックを求め、修正する。導入前にパイロット運用を一部の部門で実施し、課題を洗い出す。こうしたプロセスを踏むことで、現場に受け入れられる制度ができます。
豊橋市の化学メーカーでは、評価制度の改定にあたり、各部門から管理職2名ずつを「評価制度改定プロジェクト」のメンバーに任命しました。現場の管理職が制度設計に関わったことで、「自分たちが作った制度」という当事者意識が生まれ、導入後の運用がスムーズに進みました。
方法4:定期的な「人事と現場の対話会」を設ける
四半期に1回、人事と各部門の管理職が集まる「対話会」を開催します。テーマは、人事施策の運用状況、現場の人に関する課題、今後の方針——人事と現場が率直に意見を交換する場です。
この対話会は、「報告会」ではなく「対話の場」にすることが重要です。人事が一方的に説明するのではなく、現場からの質問、意見、提案を積極的に求めます。
方法5:人事の「見える化」を進める
人事が何をしているのかが現場から見えないことが、壁の原因の一つです。人事の活動内容、取り組んでいる課題、施策の進捗——こうした情報を定期的に社内に発信することで、人事への理解と関心が高まります。
月に1回、「人事通信」のような簡単なレポートを全社に配信するだけでも効果があります。
方法6:人事に現場経験者を配置する
人事部門に、現場の経験を持つ社員を配置することで、現場の視点を持った人事が実現します。製造現場で10年の経験がある社員が人事に異動し、制度設計に現場の視点を持ち込む——こうした人材配置が、人事と現場の壁を構造的に壊します。
四日市市の化学メーカーでは、製造部門で15年の経験を持つ社員を人事部門に異動させました。この社員が設計した新人育成プログラムは、現場の実態を踏まえた実践的な内容で、現場の管理職から「今までで最も使いやすい」と高評価を得ています。
方法7:共通のゴールを設定する
人事と現場が同じゴールに向かって動いている状態を作ります。「離職率を○%以下にする」「新入社員の1年後定着率を○%にする」——こうしたゴールを人事と現場が共有し、達成に向けて協力する関係を築きます。
安城市の自動車部品メーカーでは、「製造部門の離職率を10%以下にする」というゴールを、人事と製造部門の共通目標として設定しました。このゴールの達成に向けて、人事は採用の質の向上と研修の充実を担当し、製造部門は現場の職場環境改善と新人の受け入れ体制を担当する。役割分担を明確にした上で、月次の進捗を共有しています。
壁を壊した成果を測定する
人事と現場の壁を壊す取り組みの成果を、定量的に測定することが重要です。
測定すべき指標は以下の通りです。人事施策の現場浸透度(管理職アンケートで測定)。評価制度の運用精度(評価のばらつき度合いで測定)。現場から人事への改善提案件数。人事施策に対する社員満足度。離職率の推移。
これらの指標を四半期ごとに測定し、壁を壊す取り組みの効果を検証します。効果が出ている施策は継続し、効果が出ていない施策は見直す。このサイクルを回すことで、人事と現場の連携は着実に強化されます。
まとめ:壁を壊すのは「仕組み」と「行動」
人事と現場の壁は、精神論だけでは壊せません。「もっとコミュニケーションを取ろう」と声をかけるだけでは、何も変わりません。壁を壊すには、具体的な「仕組み」と「行動」が必要です。
人事担当者が現場に出る仕組み。制度設計に現場を巻き込む仕組み。定期的な対話の場を設ける仕組み。人事の活動を見える化する仕組み。——こうした仕組みを一つずつ構築していくことで、壁は徐々に低くなっていきます。
東海地方の中小企業は、規模が小さい分、人事と現場の距離を縮めやすいという強みがあります。大企業のように何百名もの壁を超える必要はなく、少数の関係者の意識と行動を変えるだけで、組織の動き方は大きく変わります。
まずは、人事担当者が明日、現場を一度歩いてみてください。現場の社員と5分間話してみてください。その5分の対話から、壁を壊す第一歩が始まります。
人事と現場が一体となって「人」と「組織」の課題に向き合う——この姿が実現すれば、東海地方の中小企業の組織力は飛躍的に向上します。壁を壊す取り組みは、すぐに大きな成果が出るものではありませんが、一つひとつの行動の積み重ねが、確実に組織を変えていきます。人事と現場が互いを理解し、尊重し、協力する文化を築いていく。その道のりの第一歩を、今日から踏み出してください。
関連記事
制度設計・運用東海の企業が「暗黙知」を形式知に変える方法
あのベテランが辞めたら、この工程は誰も回せなくなる。マニュアルはあるが、本当のコツはマニュアルには書かれていない——豊田市の自動車部品メーカーの製造部長が、深刻な顔で語りました。東海地方は製造業の集積地であり、ものづくりの現場には長年にわたって蓄積された暗黙知——言葉にされていない知識やノウハウ——が膨大に存在
制度設計・運用東海の中小企業がジョブ型雇用の考え方を取り入れる方法
ジョブ型雇用というのは大企業の話で、うちのような中小企業には関係ないと思っていたが、最近は少し気になっている——名古屋市の部品メーカーの社長が、経営者仲間との勉強会の後にこう話してくれました。大手企業がジョブ型雇用への移行を発表するニュースを目にするたびに、うちも何か変えなければいけないのかという漠然とした不安
制度設計・運用名古屋のIT企業がカスタマーサクセス人材を育てる方法
カスタマーサクセスの部署を作ったものの、何をすればいいのかメンバーが理解していない——名古屋市中区のSaaS企業の事業部長が、困惑した表情でこう語りました。営業部門から異動させた3名のメンバーは、従来の売って終わりの営業スタイルから抜け出せず、顧客との関係構築に苦戦しているとのことです。
制度設計・運用東海の中小企業が組織の「暗黙知」を形式知に変える方法
うちのベテランが定年を迎えたら、あの技術は誰も引き継げない——豊橋市の金属加工メーカーの社長が、深刻な表情でこう語りました。そのベテラン社員は、40年にわたって培った加工技術を持っていますが、その技術の大部分は感覚や勘に依存しています。マニュアルも手順書も存在しません。