東海の企業が「これからの人事」を考えるための羅針盤
キャリア・人事の成長

東海の企業が「これからの人事」を考えるための羅針盤

#1on1#エンゲージメント#採用#研修#組織開発

東海の企業が「これからの人事」を考えるための羅針盤

「人事の仕事は、10年前と比べて全く変わった。でも、10年後にはもっと変わっているはず。その変化に、自分はついていけるだろうか」——名古屋市の中堅メーカーの人事マネージャーが、将来への不安を率直に語りました。人事の役割は、確かに大きく変わりつつあります。給与計算や社会保険手続きといったオペレーション業務の自動化が進む一方で、経営戦略と連動した人材戦略の策定、組織開発、社員のエンゲージメント向上など、より戦略的な役割が求められるようになっています。

私はこれまで500社以上の企業の人事に携わってきましたが、東海地方の中小企業の人事が今、大きな転換点に立っていることを実感しています。製造業を中心とした東海の産業構造は、EVシフト、デジタル化、グローバル化という大きな波に直面しています。この変化の中で、人事はどのような役割を果たすべきなのか。本記事では、東海の企業が「これからの人事」を考えるための羅針盤を示したいと思います。

これは「予測」ではなく「方向性」です。未来は誰にもわかりません。しかし、変化の方向性を理解し、準備を始めることはできます。


東海の企業を取り巻く環境変化

製造業のパラダイムシフト

東海地方の経済を支えてきた自動車産業は、EVシフトという歴史的な転換期にあります。エンジン部品を製造してきた企業は、事業の転換を迫られています。この変化は、人事にも大きな影響を与えます。既存の技術者のリスキリング、新しい技術分野の人材の採用、事業転換に伴う組織再編——人事が対応すべきテーマは山積しています。

労働力人口の減少

日本全体で労働力人口が減少する中、東海地方も例外ではありません。人材の獲得競争はますます激化し、「良い人材を採用する」ことの難易度は年々上がっています。採用だけでなく、今いる社員の能力を最大限に引き出し、長く活躍してもらうことの重要性が増しています。

働き方の多様化

リモートワーク、フレックスタイム、副業・兼業——働き方の選択肢が広がる中、東海の中小企業も対応を求められています。製造業のように現場に人がいなければ成り立たない業種では、全ての働き方を導入することは困難ですが、できる範囲で柔軟性を高めることは、採用競争力の維持に不可欠です。

テクノロジーの進化

AI、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、クラウドサービスの進化により、人事のオペレーション業務の自動化が進んでいます。給与計算、勤怠管理、入退社手続き——これらの業務は、テクノロジーにより大幅に効率化される可能性があります。

社員の価値観の変化

若い世代を中心に、仕事に求める価値観が変化しています。終身雇用への信頼が薄れ、「この会社で何が学べるか」「どんな経験ができるか」を重視する社員が増えています。会社への忠誠心ではなく、自分のキャリアに対する主体性を持つ社員が増えている中、人事はこの変化に対応した制度と環境を提供する必要があります。


これからの人事に求められる5つの役割

役割1:経営のパートナー

これからの人事は、「管理部門の一つ」ではなく「経営のパートナー」としての役割を担います。経営戦略と人材戦略を接続し、経営の意思決定に人と組織の観点から貢献する。売上や利益といった経営の数字を理解し、人事施策を経営の言葉で語れること。これが、経営のパートナーとしての人事の基盤です。

豊田市の自動車部品メーカーでは、人事マネージャーが経営会議に常時参加し、事業戦略の議論に人材の観点から貢献しています。「この新規事業に参入するなら、こういう人材が○名必要で、採用に○ヶ月、育成に○ヶ月かかる」——こうした情報が、経営の意思決定の精度を高めています。

役割2:社員の成長の支援者

社員一人ひとりのキャリアに寄り添い、成長を支援する役割です。画一的な研修プログラムではなく、個人の強みや志向に合わせた育成の仕組みを提供する。1on1ミーティング、キャリア面談、メンター制度——こうした仕組みを通じて、社員の成長を支援します。

役割3:組織文化の設計者

組織の「空気」を意図的に設計し、維持する役割です。心理的安全性のある職場、挑戦を奨励する文化、多様性を尊重する風土——こうした組織文化は、自然に生まれるものではなく、意図的に設計し、継続的に育てていくものです。

役割4:変化の推進者

事業環境の変化に対応して、組織を変えていく推進者としての役割です。組織再編、人員配置の最適化、新しい制度の導入——変化に対する抵抗を乗り越え、組織を前に進める力が求められます。

役割5:データに基づく意思決定者

人事の判断を「勘と経験」ではなく「データ」に基づいて行う役割です。離職率の分析、採用チャネルの効果測定、研修のROI計算、エンゲージメントサーベイの分析——データを活用することで、人事施策の精度と説得力が向上します。


東海の人事担当者が今日からできること

アクション1:経営の数字を理解する

自社の売上、利益、人件費率、一人あたり付加価値生産性——こうした経営の数字を理解することが、経営のパートナーになるための第一歩です。毎月の経営会議の資料を読み込むことから始めてみてください。

アクション2:社員との対話を増やす

人事担当者が社員との対話を増やすことで、組織の「今」を肌で感じることができます。オフィスや現場を歩き、社員と5分の対話を重ねる。この積み重ねが、人事の施策の質を高めます。

アクション3:社外のネットワークを構築する

東海地方の人事担当者同士のコミュニティ、勉強会、セミナーに参加し、社外のネットワークを構築しましょう。同じ悩みを持つ仲間の存在は、キャリアの支えになります。他社の成功事例や失敗事例から学ぶことで、自社の施策のヒントが得られます。

アクション4:テクノロジーに慣れる

人事業務のデジタル化は避けられない流れです。クラウド型の人事労務システム、勤怠管理ツール、エンゲージメントサーベイツール——こうしたツールに触れ、自社の業務にどう活用できるかを検討する。テクノロジーを味方につけることで、オペレーション業務の効率化が進み、戦略的な業務に時間を振り向けられるようになります。

ただし、テクノロジーの導入自体が目的ではありません。テクノロジーはあくまで手段です。「何を実現するためにテクノロジーを使うのか」を明確にした上で、自社に合ったツールを選定することが重要です。

アクション5:「人事の哲学」を持つ

これからの変化に対応するために最も重要なのは、人事としての「哲学」を持つことです。「人事は何のために存在するのか」「自社にとって良い組織とはどんな組織か」「社員にとって良い会社とはどんな会社か」——こうした根本的な問いに対する自分なりの答えを持つこと。

テクニカルなスキルは時代とともに陳腐化しますが、「人事の哲学」は変化の中で方向性を示す羅針盤になります。


経営者への提言:人事を「投資先」として見る

最後に、東海地方の経営者の皆さんへ。人事部門は「コストセンター」ではなく「投資先」です。人事に適切な人材とリソースを投じることは、組織全体の生産性を高め、採用力を強化し、離職を防止するための「投資」です。

優秀な人事担当者を採用・育成すること。人事に経営の情報を共有すること。人事の提案に耳を傾けること。——これらは、経営者にしかできない、人事への「投資」です。

人事に投資した企業は、社員が育ち、組織が強くなり、結果として事業が伸びます。人事に投資しない企業は、社員が育たず、離職が増え、採用に苦しみ、事業の成長が鈍化します。この差は、3年、5年と時間が経つほどに拡大していきます。


まとめ:変化の時代こそ、人事の力が問われる

東海地方の企業は、大きな変化の渦中にあります。EVシフト、デジタル化、労働力人口の減少、働き方の多様化——こうした変化に対応できるかどうかは、「人」と「組織」の力にかかっています。そして、その「人」と「組織」の力を引き出すのが、人事の役割です。

これからの人事は、オペレーション業務をこなすだけでは不十分です。経営のパートナーとして戦略に関わり、社員の成長を支援し、組織文化を設計し、データに基づく意思決定を行い、変化を推進する——こうした多面的な役割が求められます。

しかし、全てを一度に変える必要はありません。今日からできることを一つ始める。経営の数字を読む習慣をつける。社員との対話を一つ増やす。社外のセミナーに一つ参加する。こうした小さな一歩の積み重ねが、「これからの人事」への道を切り開きます。

東海地方の企業が、変化の時代を「人」と「組織」の力で乗り越え、さらに発展していくこと。そのために、人事が持てる力の全てを発揮すること。この記事が、その羅針盤の一つになれば幸いです。

100本の記事を通じて、東海地方の人事の皆さんに向けてさまざまなテーマをお伝えしてきました。一つひとつの記事が、皆さんの日々の仕事のヒントになっていれば嬉しく思います。人事の仕事は決して簡単ではありませんが、だからこそやりがいがある。社員の成長を支え、組織を強くし、事業を前に進める——この仕事に誇りを持ち、これからも歩み続けてください。

東海地方は、日本のものづくりの中核を担う地域です。その地域の企業を支える人事の皆さんは、日本の産業の未来を支える存在でもあります。一人ひとりの人事担当者が持つ情熱と専門性が、東海の企業を、そして日本の産業をより強くしていきます。変化の時代にあっても、「人」を大切にし、「組織」を育てるという人事の本質は変わりません。その不変の価値を胸に、これからの時代を力強く歩んでいきましょう。

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