東海の企業が副業・兼業制度を導入して人材の幅を広げる方法
キャリア・人事の成長

東海の企業が副業・兼業制度を導入して人材の幅を広げる方法

#採用#評価#研修#組織開発#経営参画

東海の企業が副業・兼業制度を導入して人材の幅を広げる方法

「社員が副業をしたいと言ってきた。正直、本業に影響が出るのでは、という不安しかない」——岡崎市の自動車部品メーカーの人事担当者が、困惑した表情でこう話してくれました。

私はこれまで500社以上の企業の人事に携わってきましたが、東海地方の企業における副業・兼業制度の導入は、他の地域と比べて慎重な傾向があります。製造業が集積する東海地方では、「自社の仕事に全力を尽くすのが当然」という意識が強く、副業は「本業への裏切り」に近い感覚で捉えられることすらあります。

しかし、この認識は変わりつつあります。人手不足が深刻化する中で、「副業・兼業を認める会社のほうが魅力的」と考える求職者が増えています。また、社員が副業を通じて社外で得た知見やスキルを本業に還元する「越境学習」の効果も注目されています。副業を禁止し続けることは、採用競争力と社員の成長機会の両面でデメリットが拡大しているのです。

名古屋市のBtoBメーカー、従業員180名。この会社では2年前に副業・兼業制度を導入し、現在25名(全社員の14%)が副業を行っています。本業への悪影響はほぼ発生せず、むしろ副業者の方が高いパフォーマンスを発揮しているというデータが出ています。


東海地方の企業が副業・兼業に慎重な理由

副業・兼業に対する東海地方特有の慎重さの背景を整理します。

「忠誠心」文化の強さ

東海地方の製造業では、長期雇用と会社への帰属意識が重視されてきました。トヨタ生産方式に代表される「改善」の文化は、社員が会社のことを自分事として考え、全力で取り組むことを前提としています。この文化の中で「他の仕事もしたい」と言うことは、「この会社では物足りない」という宣言に聞こえてしまう面があります。

情報漏洩リスクへの懸念

製造業では技術情報の機密性が高く、競合他社への技術流出リスクに敏感です。「副業先が競合だったらどうする」「うちの技術ノウハウが流出するのでは」——この懸念は、東海地方の製造業において特に強く表明されます。

労務管理の複雑化

副業を認めると、労働時間の通算管理、36協定の適用、社会保険の取り扱い——労務管理が複雑になります。人事部門のリソースが限られる中小企業にとって、この管理負荷は導入の障壁です。


経営数字で副業・兼業制度の効果を測る

副業・兼業制度の導入効果を、数字で検証します。

採用競争力への影響

リクルートキャリアの調査によると、転職先選びで「副業が認められているか」を重視する求職者は年々増加しています。東海地方でも、特に20〜30代のIT系・企画系人材は副業の可否を転職条件の一つとして重視する傾向があります。

名古屋市のIT企業では、副業制度の導入を求人票に明記した結果、応募数が前年比で30%増加しました。副業制度が直接の応募動機ではなくても、「柔軟な会社」というイメージが求職者に伝わり、総合的な採用力の向上に寄与しています。

離職防止の効果

「副業がしたいから転職する」という社員を引き留められるだけでも、副業制度には価値があります。年収500万円の社員の離職コストが150万円だとすると、副業制度の導入で年間2名の離職を防げれば300万円のリターンです。制度の運用コスト(規程の策定、申請管理の工数)が年間50万円程度であれば、投資対効果は十分です。

越境学習の価値

副業を通じて社外の知見を得た社員が、本業でイノベーティブな提案をするケースが報告されています。四日市市のメーカーでは、副業でWebマーケティングの支援をしていた営業社員が、その知見を活かして自社のデジタルマーケティング戦略を提案し、新規リードの獲得数を3倍に増やしました。この成果の経済的価値は、副業制度の運用コストの何倍にも達します。


副業・兼業制度の設計と運用

ここからは、東海の企業が副業・兼業制度を導入するための具体的な設計方法を解説します。

制度設計の基本フレーム

副業の範囲を定義する

まず、「認める副業」と「認めない副業」の範囲を明確にします。

認める副業の例として、フリーランスとしての専門スキルの提供(コンサルティング、デザイン、プログラミング等)。教育・講師活動(セミナー講師、大学での非常勤講師等)。自営業・個人事業(ネットショップ運営、農業等)。他社での雇用(週末のみ等、限定的なもの)。

認めない副業の例として、競合他社での業務。本業に支障が出る深夜・長時間の副業。反社会的な業種での就労。自社の取引先との利益相反がある業務。

申請・承認のプロセスを設計する

副業を開始する前に、会社に申請し承認を得るプロセスを設けます。

申請書には以下を記載させます。副業の内容(具体的な業務内容)。副業先の企業名または個人事業の名称。予定する労働時間(週あたり、月あたり)。副業の期間。競業避止義務との抵触がないことの確認。

承認の基準として、本業への影響が軽微であること。競業避止義務に抵触しないこと。月間の副業時間が上限(例:月40時間)以内であること。

名古屋市のBtoBメーカーでは、申請から承認までを2週間以内に完了するルールを設定しています。人事部門が一次チェックを行い、直属の上司が承認する二段階のプロセスです。

労務管理のポイント

労働時間の管理

副業先での労働時間は、本業の労働時間と通算されます(労働基準法第38条)。この通算管理を適切に行わないと、法令違反のリスクがあります。

実務的な対応として、月1回の「副業報告書」の提出を義務化し、副業先での労働時間を自己申告させます。本業と副業の合計が法定労働時間を超過しないよう、上限時間を設定します。

健康管理

副業による過重労働で健康を害するリスクがあります。定期的な面談(四半期に1回)で、副業の状況と体調の確認を行います。本業のパフォーマンスが低下したり、健康上の問題が認められた場合は、副業の中止や時間短縮を求める条項を規程に盛り込みます。

秘密保持・競業避止

副業制度の導入にあたり、秘密保持契約(NDA)の再締結を推奨します。「副業を通じて自社の機密情報を外部に漏洩しないこと」を改めて書面で合意します。

刈谷市の自動車部品メーカーでは、副業申請時に「秘密保持誓約書」と「競業避止確認書」の提出を必須としています。これにより、情報漏洩リスクに対する社員の意識が高まり、管理上の安心感が確保されています。


副業・兼業制度の導入で直面する課題と対処法

課題1:管理職の抵抗感

「部下が副業をすると、本業に身が入らなくなるのでは」——この懸念は管理職から最も多く聞かれます。

対処法として、副業者のパフォーマンスデータを収集し、「副業者のほうが生産性が高い」というファクトを示すことが効果的です。名古屋市のBtoBメーカーでは、副業者25名の業績評価を分析したところ、副業者の平均評価スコアは非副業者より8%高かったという結果が出ました。副業に積極的な社員は、もともと自己管理能力が高く、本業でもパフォーマンスが高い傾向にあるのです。

課題2:社内の不公平感

副業が認められる職種と認められない職種の間で、不公平感が生じる可能性があります。製造現場の社員は「現場仕事の後に副業する体力がない」、オフィスワーカーは「テレワーク日を活用して副業できる」——この格差を放置すると不満につながります。

対処法として、副業制度を全社員に開放した上で、「副業に使える時間」は各自の判断に任せるアプローチが公平です。加えて、副業以外の「自己啓発支援」(資格取得支援、外部研修受講)を製造現場の社員にも同等に提供することで、成長機会の公平性を担保します。

課題3:副業のフリーライダー問題

副業の名目で本業の手を抜く社員が出るリスクがあります。

対処法として、副業制度には「本業のパフォーマンスが基準を下回った場合は副業の中止を求める」条項を明記します。四半期ごとのパフォーマンスレビューで、副業が本業に悪影響を与えていないかを確認する仕組みを入れます。


副業で得た知見を「本業に還元する」仕組み

副業・兼業制度の真の価値は、社員が外部で得た知見やネットワークを本業に還元することにあります。この「還元」を仕組み化する方法を紹介します。

副業者の「学び共有会」

四半期に1回、副業を行っている社員が「副業で学んだこと」を社内で発表する場を設けます。「副業先で使っているプロジェクト管理の手法が参考になった」「異業種の営業手法を知って、自社の営業にも応用できた」——こうした気づきの共有は、副業をしていない社員にとっても学びの機会になります。

静岡市のIT企業では、「越境学習発表会」を年2回開催しています。副業者だけでなく、ボランティア活動やプロボノ活動を行っている社員も発表者に含め、「社外での経験を社内に還元する」文化を醸成しています。

副業経験を人事評価に反映する

副業で得たスキルや知見が本業の成果に貢献した場合、それを評価に反映する仕組みを設けます。これにより、副業が「個人の趣味」ではなく「組織への貢献」として位置づけられます。


東海の企業の副業・兼業制度成功事例

事例:名古屋市のBtoBメーカー(従業員180名)

2年間の副業・兼業制度運用の成果を紹介します。

制度の概要として、全社員(正社員)が対象。事前申請制(人事部門+直属上司の承認)。月間副業時間の上限40時間。四半期ごとのパフォーマンスレビュー。年2回の「越境学習発表会」。

2年間の実績として、副業申請者32名、承認28名(競合関連で4名不承認)。現在の副業実施者25名(全社員の14%)。副業の内容はWebマーケティング支援が5名、プログラミング受託が4名、セミナー講師が3名、コンサルティングが3名、その他(農業、NPO活動等)が10名。

効果として、副業者の業績評価平均が非副業者より8%高い。副業者の離職率が0%(全社平均7%に対して大幅に低い)。副業で得た知見から本業への改善提案が年間15件創出(うち5件が実施に移行)。採用面接で「副業制度がある」ことを応募動機に挙げた候補者が年間12名。

副業制度の運用コスト(規程策定の初期費用30万円、年間の管理工数約50万円相当)に対して、離職防止効果(推定450万円以上)と採用力向上の効果を考えると、十分な投資対効果があります。

副業・兼業制度は、「社員を縛る」のではなく「社員の可能性を広げる」仕組みです。東海地方の企業が、「うちの社員にはうちの仕事だけに集中してほしい」という考えから一歩踏み出し、「社員の多様な経験が組織を強くする」という視点を持つこと。それが、人材の幅を広げ、組織の競争力を高める出発点になると考えています。

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