東海の中小企業がトヨタ系列以外で人材を確保する方法
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東海の中小企業がトヨタ系列以外で人材を確保する方法

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東海の中小企業がトヨタ系列以外で人材を確保する方法

「うちはトヨタ系じゃないから、人が来ない」——東海地方の中小企業の経営者から、この言葉を聞くたびに、私は少し違う見方を提案してきました。

確かに、東海地方、特に愛知県においてトヨタグループの存在感は圧倒的です。トヨタ自動車本体に加え、デンソー、アイシン、豊田自動織機、ジェイテクトなど、関連企業群が形成する雇用の磁場は強大で、周辺の中小企業にとっては「人材の引力」に対抗するのが難しい構造になっています。

しかし、私が500社以上の人事に関わってきた経験から言えるのは、「トヨタ系列でないこと」は必ずしも不利ではないということです。むしろ、トヨタ系列にはない魅力を明確にし、それを求める人材に的確に届けることで、採用を成功させている企業はたくさんあります。

春日井市の樹脂加工メーカー、従業員45名。自動車産業とは無関係の医療機器向け部品を製造しているこの会社は、3年前まで新卒採用がゼロの年が続いていました。しかし、採用戦略を見直してからは毎年2〜3名の若手を安定的に確保できるようになっています。その変化のプロセスを、この記事で詳しく紹介していきます。


トヨタ系列が東海地方の労働市場に与える影響

まず、トヨタ系列が東海地方の労働市場にどのような影響を与えているかを、構造的に整理しましょう。

給与水準の「天井」を設定している

トヨタ系列企業の給与水準は、東海地方の製造業の中では高い部類に入ります。年功序列に基づく安定した昇給、充実した賞与、手厚い福利厚生——これらが、地域の労働市場における「基準」を形成しています。

トヨタ系列の平均年収が600〜700万円台(40歳時点)であるのに対し、非系列の中小製造業では400〜500万円台が多い。この年収差は、求職者の目に確実に映ります。ただし、後述するように、年収だけで就職先を決める求職者ばかりではありません。

採用時期の「支配力」

トヨタ系列の新卒採用スケジュールは、東海地方の大学生・専門学校生の就職活動に大きな影響を与えています。系列企業の内定が出始めると、学生の動きが一気に止まる。非系列の中小企業は、この「残りの候補者プール」から採用しなければならない——というのが、多くの企業の実感です。

しかし、これは「時期をずらす」という対策でもある程度対応できます。系列企業の選考が本格化する前に接点を作り、早期に内定を出す。あるいは、系列企業の選考に落ちた学生に対して、速やかにアプローチする。タイミングの設計だけでも、採用の機会は広がります。

「安定」イメージの影響

トヨタ系列企業は「安定」のイメージが非常に強い。親や教師が学生に「トヨタ系列なら安心」と勧めるケースも多く、就職先の選択に周囲の影響が大きい東海地方では、このイメージの壁は無視できません。


「トヨタ系列でない」ことを強みに変える発想

ここからが本題です。トヨタ系列でないことを「弱み」として嘆くのではなく、「強み」として活かす発想に転換するためのポイントを整理します。

1. 「一つの取引先に依存しない」リスク分散

トヨタ系列の中にいることは安定に見えますが、実はリスクもあります。2020年のコロナ禍では、自動車生産が急減し、系列企業の多くが操業短縮や一時帰休を余儀なくされました。また、EV化の進展により、エンジン関連部品の将来的な需要減少というリスクも顕在化しています。

一方、トヨタ系列に属していない企業は、複数の業界・取引先に販路を持っていることが多い。「自動車がダメでも、医療機器がある」「建設関連が落ちても、食品業界向けがある」——この分散構造は、実は経営の安定性において大きな強みです。

採用メッセージとして「特定の大手企業に依存しない、自立した経営基盤」を伝えることは、リスクを意識する求職者にとって魅力になります。

2. 「自分の仕事が見える」規模感

トヨタ系列の大手企業では、一人の社員が担当する業務は全体の一部分に限定されがちです。何万点もの部品の中の一つの品質検査、何千人もの社員の中の一つの歯車——大企業のスケール感は魅力ですが、「自分の仕事が最終製品にどうつながっているか見えにくい」という不満を持つ若手も少なくありません。

従業員50名規模の中小企業であれば、受注から設計、製造、出荷まで一人のエンジニアが一貫して関わることができます。「自分が作った部品がお客様の手元に届く」という手触り感は、大企業では得られない体験です。

小牧市の精密部品メーカーでは、この「仕事の見える化」を採用の柱にしています。求人ページに「入社1年目で設計から出荷まで一貫して担当」と記載し、実際の製品写真を掲載。「大企業では味わえない、ものづくりの全体像が見える仕事」というメッセージが、ものづくりに強い関心を持つ学生に刺さっています。

3. 「裁量の大きさ」と「成長スピード」

中小企業の強みとして、個人に与えられる裁量の大きさがあります。大企業では入社5年目でようやく一人で任される仕事でも、中小企業では入社2年目から任されることがある。この「成長スピードの速さ」は、意欲の高い若手にとって大きな魅力です。

半田市の化学メーカーでは、入社3年目の技術者が新製品開発のプロジェクトリーダーを務めています。大企業では考えられないスピードです。この事例を採用面接で紹介したところ、「大企業の内定を蹴って入社した」という若手が2名いました。「早く成長したい」「若いうちから大きな仕事がしたい」——こうしたモチベーションを持つ人材は、中小企業の方がフィットするケースがあります。


経営数字に基づく人材確保戦略

「トヨタ系列以外で人材を確保する」ためには、感覚的なアプローチではなく、経営数字に基づいた戦略設計が必要です。

自社の「採用余力」を把握する

まず、自社の財務状況から「採用にいくらかけられるか」を明確にします。

売上高に対する人件費率が適正範囲(製造業の場合、一般的に30〜40%)に収まっているか。1名採用した場合の売上貢献見込みはいくらか。採用コスト(媒体費、面接工数、教育費)の総額はいくらか。

瀬戸市の窯業関連メーカーでは、この計算を経営会議で共有したことが転機になりました。「1名の技術者を採用することで、新規受注が年間800万円増える見込みがある。採用コスト200万円、初年度の年収400万円を差し引いても、2年目から純利益に貢献する」——この試算が、経営者の採用投資への姿勢を変えました。

給与水準の戦略的設定

トヨタ系列との給与差を完全に埋めることは難しいかもしれません。しかし、「地域の中小企業の中では高い水準」を設定することは可能です。

重要なのは、「何に対して給与を払うか」を明確にすることです。「年功序列で自動的に上がる」のではなく、「このスキルを身につけたら、この給与レンジに上がる」という透明な仕組みを作ることで、成長意欲の高い人材を引きつけることができます。

一宮市の繊維加工メーカーでは、「スキルグレード制」を導入しました。技術スキルを5段階に定義し、各段階に対応する給与レンジを明示。入社時にはグレード1(月給22万円)からスタートし、グレード3(月給28万円)に到達すると、トヨタ系列の同年代の社員と同等以上の年収になる設計です。「頑張ればトヨタ系列以上の給与がもらえる」という仕組みが、意欲の高い若手の動機づけになっています。


ターゲット別の採用アプローチ

トヨタ系列以外の企業が狙うべき人材は、「全方位」ではありません。自社の強みが響くターゲットに絞ったアプローチが効果的です。

ターゲット1:Uターン志向の地元出身者

大学進学で愛知県外(東京・大阪・関西)に出たが、地元に戻りたいと考えている若手。地元への愛着があり、「親の近くで暮らしたい」「地域に貢献したい」というモチベーションを持っている。

このターゲットには、「地元で長く働ける安定した会社」というメッセージが有効です。加えて、「東京で得た経験を地元で活かせる」という成長機会の提示も重要です。

稲沢市の食品メーカーでは、東京・大阪の大学で開催される「地元就職フェア」に毎年出展しています。ブースに「地元出身の若手社員」を配置し、「東京から戻って良かったこと」を本人の言葉で語ってもらう。この取り組みにより、毎年1〜2名のUターン採用に成功しています。

ターゲット2:トヨタ系列に「馴染めなかった」転職者

トヨタ系列企業に新卒入社したものの、大組織の文化に馴染めず退職した若手。決裁の遅さ、個人の裁量の小ささ、社内政治——こうした大企業の課題に不満を持っている人材がいます。

このターゲットには、「うちならすぐに動ける」「少人数だからこそ風通しがいい」というメッセージが響きます。ただし、注意点もあります。トヨタ系列から来た人材が、中小企業の「仕組みの少なさ」にカルチャーショックを受けるケースもある。大企業では当たり前だった業務フローや教育体制がないことに戸惑う可能性があるため、入社前にリアルな現場を見せることが重要です。

ターゲット3:ニッチ技術に興味を持つスペシャリスト志向

自社が持つ独自技術やニッチ分野に、強い興味を持つ技術者。例えば、特殊な素材の加工技術、精密な測定技術、独自の製法——こうした「他社では経験できない技術」に魅力を感じる人材は、大企業よりも中小企業を選ぶ傾向があります。

常滑市の焼き物関連技術を応用したセラミック部品メーカーでは、「世界でここでしかできない加工」を採用メッセージの核にしています。セラミックの微細加工技術に特化した技術ブログを運営し、学会発表の内容を一般向けに解説した記事を発信。ニッチな技術領域に関心を持つ大学院生からの応募が増え、毎年1〜2名の専門人材の採用に成功しています。


非系列企業同士の連携による採用力強化

1社だけで採用力を高めるのが難しい場合、同じ立場の企業同士が連携する方法もあります。

合同企業説明会の開催

トヨタ系列の合同説明会には参加できない非系列の中小企業が、独自に合同企業説明会を開催している事例があります。西三河地区では、自動車系列に属さない製造業5社が「ものづくり中小企業フェア」を共同で開催しています。1社では学生を集められなくても、5社合同であれば告知力が高まり、参加者も増えます。

「東海の隠れた技術力」をテーマにした広報

個社の広報だけでなく、「東海地方にはトヨタ系列以外にも面白い技術を持つ会社がたくさんある」という地域レベルのメッセージを発信する取り組みも効果的です。行政(商工会議所や産業振興センター)と連携し、「東海のものづくり隠れチャンピオン企業」といったテーマで特集記事や動画を作成する——こうした取り組みが、非系列企業全体の認知度向上につながります。


人材定着のための組織づくり

採用した人材を定着させるための組織づくりも、重要な課題です。特に、トヨタ系列から転職してきた人材は、大企業とのギャップに戸惑うことがあるため、丁寧なフォローが必要です。

入社後のオンボーディング設計

入社後1ヶ月間は、毎週1回のフォロー面談を実施する。業務の進捗だけでなく、「困っていること」「戸惑っていること」を聞く場を設けることで、早期離職を防ぎます。

キャリアパスの明示

中小企業の課題の一つは、「この会社にいても将来が見えない」と社員が感じてしまうことです。限られたポストの中でも、「技術を極めるスペシャリストコース」「マネジメントに進むリーダーコース」「新規事業を立ち上げる起業家コース」——といった複数のキャリアパスを提示することで、長期的なモチベーションを維持できます。

犬山市の機械メーカーでは、入社3年目のキャリア面談で「今後5年間でどうなりたいか」を話し合い、個人別の育成計画を作成しています。「うちは小さい会社だけど、あなたの成長を真剣に考えている」というメッセージが伝わることが、定着の鍵になっています。


「トヨタ系列でないからこそ」の覚悟

最後に伝えたいのは、トヨタ系列以外の企業が人材を確保するには、「覚悟」が必要だということです。

系列に属していれば、ある程度の仕事の量と安定が保証される。しかし、系列の外にいる企業は、自力で市場を開拓し、自力で技術を磨き、自力で人材を集めなければならない。この「自立」こそが、非系列企業の最大の強みであり、採用においても最も伝えるべきメッセージです。

「トヨタの看板がなくても、自分たちの技術で勝負している」——この覚悟に共感する人材は、必ず存在します。大事なのは、その覚悟を経営数字で裏づけ、具体的なエピソードで伝え、求職者に「この会社なら自分も成長できる」と感じてもらうことです。

東海地方の労働市場は、トヨタ系列の影響が大きい。しかし、その「影」の中にこそ、独自の光を放つ企業がある。その光を、正しく、遠くまで届ける工夫を続けることが、非系列の中小企業の人材確保の道を切り拓きます。


本記事は、東海地方の中小企業における人事課題を長年支援してきた経験に基づいて執筆しています。個別の人事課題についてのご相談は、人事図書館にてお受けしています。

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