東海の建設業が人手不足を乗り越えるための人事戦略
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東海の建設業が人手不足を乗り越えるための人事戦略

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東海の建設業が人手不足を乗り越えるための人事戦略

「現場に人が足りない」——東海地方の建設会社の経営者や現場監督から、この切実な声を聞かない日はありません。

私はこれまで500社以上の企業の人事に携わってきましたが、建設業の人手不足は、他の産業と比べても構造的に深刻です。高齢化による退職者の増加、若年層の入職者の減少、そして2024年4月から適用された時間外労働の上限規制——これらが重なり、東海地方の建設業は「人が足りない」という問題に正面から向き合わざるを得ない状況にあります。

名古屋市内の建設会社で、従業員80名、年商25億円の中堅企業があります。この会社では、5年前から人事戦略の見直しに取り組み、技術者の採用数を年間2名から6名に増やし、入社3年以内の離職率を40%から15%に改善しました。何が変わったのか——それは「建設業だから仕方ない」という諦めを捨て、事業の数字から人事を再設計したことです。


東海地方の建設業が直面する構造的課題

東海地方の建設業には、全国共通の課題に加えて、地域特有の構造があります。

リニア中央新幹線・インフラ更新の需要

東海地方では、リニア中央新幹線の関連工事、名古屋駅周辺の再開発、老朽化した橋梁・トンネルの更新工事など、大規模な建設需要が続いています。工事量は増えているのに、それを担う人材は減っている——この需給のギャップが、人手不足を加速させています。

トヨタ関連の工場建設・改修需要

自動車産業のEV化に伴い、工場の新設・改修需要も高まっています。バッテリー工場、EV組立ライン、テストコース——こうした大型案件が、建設業の人材をさらに吸い上げています。

高齢化の深刻さ

国土交通省のデータによると、建設業の就業者の約35%が55歳以上、29歳以下は約10%。この年齢構成は、今後10年で大量の退職者が出ることを意味しています。東海地方も例外ではなく、現場監督や熟練技能者の退職が相次ぐことが予想されます。


経営数字から人手不足のインパクトを可視化する

「人が足りない」という現象は実感として理解していても、それが経営にどれだけのインパクトを与えているかを数字で把握している建設会社は多くありません。

受注辞退による機会損失

人手不足により受注を断らざるを得ないケースが増えています。ある東海地方の建設会社では、年間の問い合わせ件数のうち約20%を人員不足を理由に断っていました。断った案件の平均受注額が2,000万円、年間約15件として計算すると、年間3億円の機会損失が発生していることになります。

この数字を経営者に示したとき、「採用にお金をかけることの意味が初めてわかった」という反応がありました。採用投資を年間500万円増やしても、機会損失の3億円と比較すれば、投資対効果は明らかです。

残業増加のコスト

人手不足は、既存社員の残業増加につながります。残業手当の増加は直接的なコスト増ですが、それ以上に問題なのは、疲弊による生産性の低下と離職の連鎖です。

豊橋市の建設会社では、1人あたりの月間残業時間が平均45時間に達していました。時間外労働の上限規制(年間720時間、月45時間が原則)に抵触するリスクがあることに加え、残業代の増加が年間1,200万円のコスト増になっていました。3名の新規採用にかかるコスト(約600万円)と比較しても、採用のほうが合理的だという結論に至りました。

労災リスクの増大

人手不足による過重労働は、労災リスクを高めます。建設業は元から労災発生率が高い産業ですが、疲労蓄積による注意力の低下が事故につながるリスクは、経営として看過できません。労災が発生した場合の直接コスト(治療費・休業補償)だけでなく、工期遅延・元請けからの信頼低下・新規受注への影響——間接コストまで含めると、1件の重大事故で数千万円の損失が生じ得ます。


建設業の採用を変える具体策

人手不足を嘆くだけでは何も変わりません。ここからは、東海地方の建設会社が実際に取り組んでいる採用改善の具体策を紹介します。

1. 「3K」イメージの払拭——現場のリアルを見せる

建設業に対する「きつい・汚い・危険」のイメージは根強いですが、現在の建設現場は大きく変化しています。ICT施工の導入、安全管理の徹底、休憩環境の改善——こうした変化を、外部に発信できているかどうかが、採用力の差になります。

岐阜市の建設会社では、現場の様子をInstagramで日常的に発信しています。最新のドローン測量の風景、きれいに整備された現場事務所、昼休みにスタッフが談笑する風景——「建設現場ってこんな感じなんだ」という新しいイメージを求職者に届けることで、応募者層が広がりました。

特に効果的だったのは、若手社員のインタビュー動画です。「前職はオフィスワークだったけど、外で体を動かしながら形あるものを作る仕事がしたくて転職した」「自分が関わった建物を街で見かけると、誇らしい気持ちになる」——こうしたリアルな声が、同世代の求職者の共感を呼びました。

2. 女性技術者の採用・定着

建設業は長く男性中心の業界でしたが、女性技術者の活躍が増えています。東海地方でも、女性の現場監督や施工管理技士が少しずつ増えてきました。

四日市市の建設会社では、女性専用の更衣室・トイレの整備、育児休業の取得実績の公開、女性技術者のメンター制度——これらの取り組みを進めた結果、過去3年間で女性技術者を5名採用することに成功しました。「建設業でも女性が活躍できる」という事実を、具体的な事例として見せることが重要です。

3. 未経験者の積極採用と育成プログラム

建設業の経験者だけを採用しようとすると、候補者プールが非常に限られます。未経験者を採用し、自社で育てるという発想への転換が、人材確保の現実的な解決策です。

名古屋市緑区の総合建設会社では、「未経験者歓迎」の求人を出し、入社後6ヶ月間の集中研修プログラムを用意しています。座学(建設業の基礎知識、安全管理、図面の読み方)3ヶ月、現場OJT3ヶ月のカリキュラムで、半年後には現場の戦力として活躍できるレベルまで育成する。

この研修プログラムの開発には約200万円、運営コストは1名あたり年間100万円。しかし、経験者を人材紹介で採用すると1名あたり150〜200万円の手数料がかかり、しかも応募者が来ない場合もある。自社育成のほうが、中長期的にはコスト効率が高いと判断しました。

4. 外国人技能実習生・特定技能人材の活用

東海地方の建設業では、外国人材の活用が急速に進んでいます。技能実習制度や特定技能制度を通じて、ベトナム、インドネシア、フィリピンなどからの人材が現場で活躍しています。

ただし、外国人材の活用には、言語コミュニケーション、文化の違い、住環境の整備、安全教育——といった課題への対応が必要です。「安い労働力」としてではなく、「チームの一員」として受け入れる姿勢が、外国人材の定着と戦力化の鍵になります。

安城市の建設会社では、ベトナム人技能実習生6名を受け入れ、日本語教育の支援、生活面のサポート体制、現場での安全教育の多言語化——を体系的に整備しています。3年間の実習期間を終えた後、特定技能1号に移行して継続勤務するケースも増えており、中期的な人材確保の柱になりつつあります。


時間外労働の上限規制への対応

2024年4月から建設業にも適用された時間外労働の上限規制は、人手不足の中で大きなインパクトを与えています。

規制の内容を正確に理解する

時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間。特別条項つきの36協定を結んでも、年間720時間、月100時間未満(複数月平均80時間以内)が上限です。これまで「建設業は適用猶予」とされてきたため、対応が遅れている企業もあります。

工程管理と人員配置の見直し

上限規制に対応するためには、「同じ工事をより少ない時間で完了する」か「より多くの人員で分担する」かのどちらかが必要です。前者にはICT施工やプレハブ工法の活用、後者には採用数の増加や外注の活用が求められます。

静岡市の建設会社では、工程管理ソフトの導入により、現場監督の事務作業を月20時間削減しました。写真管理、日報作成、工程表の更新——これまで手作業で行っていた業務をデジタル化することで、残業時間の削減と現場での指導時間の確保を両立しています。


若手の定着:入社後のフォローが勝負を分ける

建設業の若手離職率は、全産業平均と比べて高い水準にあります。入社3年以内の離職率が30〜40%という企業も少なくありません。採用コストを回収するためにも、定着のための施策は不可欠です。

入社後1年間の「手厚いフォロー」

建設業は、入社後すぐに現場に配属されることが多い業界です。右も左もわからない若手が、いきなり厳しい現場に放り込まれる——この「壁」が、早期離職の最大の原因です。

津市の建設会社では、入社後1年間は必ずベテラン社員とペアで行動する「バディ制度」を導入しています。技術指導だけでなく、「困ったことはないか」「体調はどうか」を日常的に確認する。この制度の導入後、入社1年以内の離職率が35%から10%に改善しました。

キャリアパスの提示

「建設業に入ったら、一生現場」というイメージが若手の不安の一因です。実際には、現場経験を積んだ後に、工事管理、積算、設計、営業——さまざまなキャリアパスがあります。

入社時点で「3年後の姿」「5年後の姿」「10年後の姿」を具体的に示すことで、長期的なモチベーションを維持できます。岡崎市の建設会社では、キャリアマップを作成し、「現場監督→工事部長→取締役」「現場監督→積算→管理部門」といった複数のキャリアルートを提示しています。

資格取得支援

建設業には多くの国家資格があり、これらの資格が給与やキャリアに直結します。施工管理技士、建築士、測量士——こうした資格の取得を会社が支援することが、若手のモチベーション維持と技術力向上の両面で効果的です。

受験費用の全額負担、合格祝い金の支給、試験前の有給休暇——こうした支援制度を整えている企業は、若手からの評価が高い。「資格を取ったら給与が上がる」「会社が応援してくれる」という実感が、定着につながります。


ICT施工と人材戦略の接続

建設業のICT化は、人手不足への対応策として注目されています。ドローン測量、3Dモデリング、自動施工管理——これらの技術を活用することで、少ない人数でも品質の高い施工が可能になります。

ICT人材の確保

ICT施工を推進するためには、従来の建設技術者に加えて、ICTスキルを持つ人材が必要になります。建設業の知識は入社後に学べるが、ICTの基礎スキルは採用段階で求める——という発想で、IT系の学部や専門学校からの採用を始めている企業もあります。

一宮市の建設会社では、情報系学部の卒業生を「ICT施工推進担当」として採用し、現場とICTの橋渡し役を任せています。この担当者が現場にドローン測量を導入し、従来3日かかっていた測量作業を半日に短縮した事例もあります。

既存社員のICTスキル習得

新規採用だけでなく、既存の技術者にICTスキルを習得してもらう取り組みも重要です。「パソコンが苦手」という50代の現場監督に対して、タブレットでの図面確認や写真管理から始め、段階的にICTツールの活用範囲を広げる——こうした段階的なアプローチが現実的です。


地域の教育機関との連携

建設業の人材確保において、地域の教育機関との連携は中長期的な投資として重要です。

工業高校・高専との関係構築

東海地方には、名古屋工業高校、愛知工業高校、岐阜工業高校、静岡工業高校など、多くの工業高校があります。これらの学校との関係を構築し、インターンシップの受け入れや出前授業を行うことで、「建設業」という選択肢を生徒に認知してもらうことが重要です。

建設系の専門学校・大学との連携

名城大学、愛知工業大学、中部大学など、建築・土木学科を持つ大学との産学連携も、採用パイプラインの構築に有効です。研究室訪問、ゼミへの出張講義、共同研究——こうした地道な活動が、2〜3年後の採用につながります。


建設業の人事に求められる視座

東海地方の建設業が人手不足を乗り越えるためには、「人を探す」だけでなく、「人が来たいと思う会社を作る」という発想が不可欠です。

給与を上げる、休みを増やす、現場環境を改善する——これらは当然の取り組みですが、それだけでは差別化にならない。自社の工事が地域のインフラを支えていること、自分が関わった建物が何十年も街に残ること——建設業ならではの「仕事の意味」を伝えることが、人材を惹きつける最も強い力になります。

経営数字で現状を直視し、具体的な施策を設計し、地道に実行を積み重ねる——それが、東海地方の建設業の未来を切り拓く人事戦略です。


本記事は、東海地方の建設業における人事課題を長年支援してきた経験に基づいて執筆しています。個別の人事課題についてのご相談は、人事のプロ実践講座にてお受けしています。

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