
東海の物流企業が2024年問題以降の人材戦略を再構築する方法
目次
東海の物流企業が2024年問題以降の人材戦略を再構築する方法
「ドライバーが足りない——だけでなく、倉庫も、事務も、管理者も足りない」——東海地方の物流企業の人事担当者の悲鳴は、年々深刻さを増しています。
私はこれまで500社以上の企業の人事に携わってきましたが、物流業界が直面する人材課題は、2024年4月のトラックドライバーの時間外労働の上限規制(いわゆる「2024年問題」)を境に、新たなフェーズに入りました。規制そのものは始まりに過ぎず、その影響がサプライチェーン全体に波及する中で、人材戦略を根本から再構築する必要があります。
東海地方は、日本の物流の要衝です。名古屋港は貿易額日本一、東名・名神高速道路の交差点であり、製造業の一大集積地を支える物流インフラが集中しています。この地域の物流が止まれば、日本のものづくりが止まる——それほどの重要性を持つ東海の物流業が、人材課題をどう乗り越えるかを考えます。
名古屋市港区の物流会社、ドライバー80名、倉庫作業員50名、事務・管理職30名。この会社は2024年問題に備えて3年前から人事戦略の見直しに着手し、ドライバーの離職率を25%から10%に改善し、新規採用も年間15名のペースを維持しています。その取り組みの要点を共有します。
2024年問題の本質と東海の物流への影響
2024年問題とは何かを、改めて整理します。
時間外労働の上限規制
2024年4月から、トラックドライバーに対して年間960時間の時間外労働の上限規制が適用されました。これにより、1人のドライバーが働ける時間が制限され、同じ輸送量を維持するにはより多くのドライバーが必要になります。
東海地方への影響の大きさ
東海地方は製造業の集積地であり、部品・素材・完成品の輸送需要が非常に大きい。特に、トヨタ関連のジャスト・イン・タイム(JIT)物流は、時間指定の厳しい配送が多く、ドライバーの荷待ち時間も長い傾向にあります。上限規制により、この「荷待ち時間」も労働時間に算入されるため、実質的な運行可能時間がさらに短くなります。
国土交通省の試算では、2024年問題により全国で約14%の輸送力不足が生じるとされています。東海地方は製造業物流の比率が高いため、影響はさらに大きい可能性があります。
経営数字で人材課題を捉える
物流業の人材課題を経営数字で捉えることが、戦略設計の出発点です。
ドライバー1名の「収益貢献額」
トラックドライバー1名が年間で生み出す売上を計算します。例えば、4トントラックのドライバーが1日2〜3件の配送を行い、1件あたりの運賃が5万円とすると、1日の売上は10〜15万円。月間稼働日数22日で220〜330万円、年間で2,640〜3,960万円。ドライバーの年収が450万円、車両維持費・燃料費を含めた原価が年間800万円としても、1名あたり数百万円〜1,000万円以上の利益貢献があります。
逆に、ドライバーが1名不足するたびに、この収益を失う。あるいは、既存のドライバーに無理をさせて上限規制に抵触するリスクを抱える。人材不足の経営インパクトは甚大です。
採用コストと定着コストの比較
ドライバーの中途採用コストは、1名あたり50〜150万円(求人広告費+人材紹介手数料)。一方、大型免許取得支援(30〜40万円)を含めた育成コストを加えると、1名の「戦力化」までに200万円前後のコストがかかります。
この投資を回収するためには、少なくとも2〜3年は在籍してもらう必要があります。しかし、物流業界のドライバー離職率は高く、1年以内の離職も珍しくありません。「採用→育成→離職→再採用」の繰り返しが、経営を圧迫しています。
ドライバーの採用戦略を再構築する
2024年問題以降、ドライバーの採用はさらに激化しています。限られた候補者プールの中で、どう差別化するかが問われています。
1. 給与・待遇の競争力を確保する
ドライバーが転職先を選ぶ際の最大の基準は、依然として「給与」です。東海地方のドライバーの給与水準は、全国平均と同等かやや高い傾向にありますが、同じ東海でも企業間の差は大きい。
「残業時間が減る=手取りが減る」という2024年問題の副作用に対しては、基本給の引き上げや歩合制の見直しで対応する必要があります。「残業で稼ぐ」モデルから「基本給で報いる」モデルへの転換が、ドライバーの安心感を高めます。
四日市市の運送会社では、2024年問題に先立って基本給を月額3万円引き上げ、残業代減少分を相殺する設計にしました。総人件費は年間で約800万円増加しましたが、この施策により離職が5名分防げたと試算しており、採用コスト削減効果(5名×120万円=600万円)を含めると、投資は回収できています。
2. 「働き方」で差別化する
ドライバーの採用において、給与以外で差別化できるのが「働き方」です。
日帰り運行と長距離運行の選択肢。完全週休2日制の導入。荷待ち時間の削減(荷主との交渉による改善)。デジタルタコグラフやELDの導入による労務管理の適正化。
春日井市の物流会社では、「日帰り運行専門」を謳った求人を出したところ、「家族との時間を大切にしたい」という30〜40代のドライバーからの応募が増加しました。長距離運行を好むドライバーと日帰りを好むドライバーを明確に分け、それぞれの希望に合った運行計画を組む——この「選べる働き方」が、採用と定着の両面で効果を発揮しています。
3. 未経験者・異業種からの転職を促進する
ドライバー経験者だけをターゲットにしていては、候補者プールが限られます。未経験者や異業種からの転職者を積極的に受け入れる体制を構築することが重要です。
大型免許・中型免許の取得費用を会社が負担する「免許取得支援制度」は、最も効果的な施策の一つです。取得費用30〜40万円を会社が負担し、入社後3年以上の勤務で返還免除とする——この仕組みが、異業種からのキャリアチェンジを促進します。
豊橋市の物流会社では、製造業からの転職者をターゲットにした採用キャンペーンを実施しました。「工場で体を動かしていた経験が活かせる仕事」「一人の時間が好きな人に向いている仕事」——こうした切り口で訴求し、年間8名の未経験者を採用。うち6名が1年以上定着しています。
4. 女性ドライバーの採用
物流業界でも、女性ドライバーの活躍が増えています。特に、小型・中型トラックの配送や、倉庫間の横持ち輸送など、女性が働きやすい業務領域があります。
女性が安心して働ける環境整備——更衣室・トイレの整備、パワーゲート付き車両の導入(荷物の積み下ろし負荷を軽減)、育児との両立支援——が、女性ドライバーの採用につながります。
倉庫・管理部門の人材確保
2024年問題はドライバーの問題として語られがちですが、実は倉庫作業員や管理部門の人材確保も重要な課題です。
倉庫作業のDXと省人化
倉庫作業の自動化——AGV(自動搬送ロボット)、ピッキングシステム、WMS(倉庫管理システム)——の導入により、少ない人数でもオペレーションを維持できる体制を作ることが重要です。
名古屋港付近の物流センターでは、WMSの導入により入出庫管理の作業時間が40%削減され、ペーパーレス化による事務作業の効率化も実現しました。この効率化により、4名分の人員を削減するのではなく、削減された時間を品質管理や顧客対応の強化に振り向けています。
配車・運行管理のデジタル化
配車業務は、熟練の配車担当者の経験と勘に依存しているケースが多い。AI配車システムの導入により、最適な配車計画を自動生成し、配車担当者の負荷を軽減する取り組みが進んでいます。
これは人員削減のためではなく、「属人化した業務を仕組み化する」ことで、新しい管理者が早く立ち上がれるようにする——つまり、人材育成の効率化にもつながります。
ドライバーの定着を実現する施策
採用と同時に、定着のための施策を充実させることが、2024年問題以降の物流企業の生命線です。
健康管理の支援
長時間の運転は、腰痛・眼精疲労・生活習慣病のリスクが高い。定期健康診断に加えて、腰痛予防体操の実施、健康相談窓口の設置、運転席のエルゴノミクス改善——こうした取り組みが、ドライバーの長期的な就業継続を支えます。
キャリアパスの明示
「ドライバー→班長→運行管理者→営業所長」といったキャリアパスを明示することで、「この会社で長く働く理由」を提供します。運行管理者資格の取得支援、管理者向けのマネジメント研修——こうした投資が、優秀なドライバーの定着につながります。
コミュニケーションの強化
ドライバーは、日中は一人で運転しているため、会社との接点が少ない。帰庫後の短い時間で事務処理を済ませ、翌日の運行に備える——この生活パターンの中で、「会社に所属している」という帰属感が薄れやすいことが、離職のリスク因子になります。
月1回の全体ミーティング、デジタルツールを活用した日常的な情報共有、管理者との定期面談——こうした接点を意図的に設けることで、ドライバーの孤立感を軽減できます。
荷主との関係見直し:人材戦略は荷主との交渉から
物流企業の人材問題は、実は荷主との関係性に大きく影響されます。
適正運賃の確保
ドライバーの待遇改善の原資は、運賃から生まれます。適正な運賃を荷主に請求できなければ、給与を上げることも、労働環境を改善することもできません。2024年問題を機に、「運賃の適正化」を荷主と交渉する物流企業が増えていますが、荷主との力関係が不均衡な場合、交渉は容易ではありません。
しかし、「ドライバー不足で運べなくなる」というリスクを荷主と共有し、「運賃を上げなければサービスを維持できない」という現実を示すことで、交渉の糸口が生まれます。
荷待ち時間・附帯作業の削減
荷待ち時間の長さは、ドライバーの労働時間を圧迫するだけでなく、「待っている時間が無駄」というモチベーション低下にもつながります。荷主と連携して、予約制の導入、パレット化による荷役時間の短縮、附帯作業(検品・仕分け)の明確化——こうした改善を進めることが、ドライバーの労働環境改善につながります。
安城市の物流会社では、主要荷主5社との間で「荷待ち時間削減プロジェクト」を立ち上げ、予約制の導入とパレット化を推進しました。結果、平均荷待ち時間が90分から30分に短縮され、ドライバー1名あたりの1日の運行回数が1回増えました。この効率化が、残業時間の削減とドライバーの満足度向上の両方に寄与しています。
地域連携と人材育成
東海地方の物流業界全体で、人材課題に取り組む連携の動きも出ています。
運送事業者間の連携
同業他社と連携して、共同配送・中継輸送を行う取り組みが広がっています。A社のドライバーが東海地方から関東まで運び、関東のB社のドライバーが先の配送を引き継ぐ——この「中継輸送」により、長距離運行を減らし、ドライバーの日帰り率を高めることができます。
物流系専門学校・教育機関との連携
物流に関する教育機関は少ないですが、運転免許学校や職業訓練校との連携により、将来のドライバー候補者との接点を作ることは可能です。免許取得時に自社のPRを行い、「免許を取ったらうちで働きませんか」というアプローチが効果的です。
2024年問題「以降」を見据えて
2024年問題は、物流業界の人材課題の「始まり」に過ぎません。今後さらに進む少子高齢化、自動運転技術の発展、物流の2024年問題の影響の波及——こうした変化に対応するためには、短期的な対策だけでなく、中長期的な人材戦略の構築が不可欠です。
自動運転やドローン配送といったテクノロジーが実用化されるまでの間、人材の確保と定着が東海の物流を支え続けます。経営数字で課題を可視化し、ドライバーの声に耳を傾け、荷主との関係を見直し、テクノロジーの活用を進める——この多面的なアプローチが、2024年問題以降の物流企業の競争力を決めます。
本記事は、東海地方の物流企業における人事課題を長年支援してきた経験に基づいて執筆しています。個別の人事課題についてのご相談は、人事のプロ実践講座にてお受けしています。
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