
東海の企業が管理職のプレイングマネージャー問題を解消する方法
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東海の企業が管理職のプレイングマネージャー問題を解消する方法
「うちの課長は自分で営業もしながら部下のマネジメントもしている。でも正直、どっちも中途半端になっている」——名古屋市の専門商社の部長が、管理職の現状をこう表現しました。
私はこれまで500社以上の企業の人事に携わってきましたが、東海地方の中小企業で「管理職の100%がプレイングマネージャーである」という会社は珍しくありません。社員数が少ない中小企業では、管理職が現場の実務を手放すことは現実的に難しい。しかし、「実務をこなしながらマネジメントもする」という状態が常態化すると、マネジメントがおろそかになり、部下が育たず、管理職自身も疲弊するという悪循環に陥ります。
東海地方は製造業が集積する地域であり、「現場を知らない管理職は信頼されない」という文化が根強くあります。この文化自体は健全ですが、「現場で手を動かすこと」と「マネジメントの時間を確保すること」のバランスが取れていない企業が大半です。
浜松市の精密部品メーカー、従業員100名。この会社では管理職の「プレイヤー比率」を段階的に下げ、マネジメントに充てる時間を増やす取り組みを3年間続けてきました。結果として、管理職の残業時間が月平均20時間減少し、チーム全体の生産性は25%向上。管理職の部下育成力も格段に改善しています。
プレイングマネージャー問題の構造
東海地方の企業におけるプレイングマネージャー問題を構造的に分析します。
「人が足りない」という根本原因
プレイングマネージャーが生まれる最大の原因は、人員不足です。管理職がプレイヤーの仕事を手放すと、その業務を担う人がいない。結果として、管理職が自ら実務をこなし続けることになります。
豊田市の部品メーカーの課長は、8名の部下を持ちながら、自らも月間売上目標1,500万円を持つ営業担当者です。朝8時から17時までは客先訪問と商談、17時以降に部下の報告書チェック、翌月の計画策定、人事評価のフィードバック——マネジメント業務はすべて残業時間に行っています。月の残業は常に40時間を超え、土曜出勤も月2〜3回。この状態が3年続いた結果、この課長は心身の不調で休職しました。
「プレイヤーとして優秀だった人」がマネージャーになる構造
東海地方の中小企業では、「現場で最も優秀な社員」が管理職に昇進するケースが大半です。「自分でやったほうが早い」という思考が染みついたプレイヤーが、部下に仕事を任せることに心理的な抵抗を感じる。結果として、自分で仕事を抱え込み、部下に成長の機会を与えられない状態になります。
「任せると品質が落ちるから自分でやる」——刈谷市の自動車部品メーカーの係長の言葉です。この考え自体は責任感の表れですが、長期的には組織の成長を阻害します。
マネジメントの価値が「見えにくい」
プレイヤーとしての成果は数字で見えます。売上、生産量、受注件数——目に見える成果です。一方、マネジメントの成果(部下の育成、チームの士気向上、組織の中長期的な強化)は短期的には見えにくい。この「見えにくさ」が、マネジメントの優先度を下げる原因になっています。
経営数字でプレイングマネージャー問題のコストを測る
プレイングマネージャー問題を放置することのコストを、数字で可視化します。
管理職の残業コスト
プレイングマネージャーは構造的に残業が多くなります。実務+マネジメントの二重業務を勤務時間内に収めることは困難だからです。管理職10名の月間残業が平均30時間だとすると、10名×30時間×12ヶ月×時給換算3,000円=年間1,080万円の残業コスト。マネジメントに専念できる体制をつくれば、この残業の相当部分を削減できます。
部下が育たないことによる機会損失
管理職がマネジメントに時間を割けないと、部下の育成が遅れます。部下1名の「戦力化」が6ヶ月遅れた場合の機会損失を月額30万円とすると、5名の部下×6ヶ月×30万円=900万円。管理職がマネジメントに集中できれば、この損失の相当部分を取り戻せます。
管理職の離職・休職リスク
プレイングマネージャーの過重負荷は、管理職自身の離職や休職のリスクを高めます。管理職1名の離職コストは、一般社員以上に大きく、200〜300万円に達することもあります。加えて、管理職不在の期間中のチーム生産性の低下、後任管理職の育成コスト——影響は計り知れません。
安城市の電子部品メーカーでは、過去5年間で3名の管理職がメンタルヘルスの問題で休職しました。いずれも、プレイングマネージャーとしての過重負荷が原因でした。3名の休職による損失(代替人員の確保、業務の遅延、チームの士気低下)は、年間で合計1,500万円を超えたと試算されています。
プレイングマネージャー問題を解消する5つのアプローチ
ここからは、東海の企業が実践できる具体的な解消策を紹介します。
アプローチ1:「プレイヤー比率」を段階的に下げる
管理職のプレイヤー業務をゼロにするのは現実的ではありません。重要なのは、「プレイヤー比率」を意識的にコントロールすることです。
現在の管理職のプレイヤー比率を測定します。「先週の労働時間のうち、実務(プレイヤー業務)に費やした時間は何%か」を各管理職に自己申告してもらいます。多くの場合、80〜90%がプレイヤー業務、10〜20%がマネジメント業務という回答が返ってきます。
ここから、半年かけてプレイヤー比率を60%まで下げることを目標にします。下げた20〜30%分のマネジメント時間で、1on1、目標の進捗管理、部下の育成——これらの活動を行います。
浜松市の精密部品メーカーでは、管理職のプレイヤー比率を四半期ごとにモニタリングしています。1年目は80%→70%、2年目は70%→60%、3年目は60%→50%と段階的に削減。「いきなりマネジメントに専念しろ」ではなく、「少しずつ比率を変えていく」アプローチが現実的です。
アプローチ2:管理職の実務を「委譲」する仕組みをつくる
管理職のプレイヤー業務を部下に委譲するためには、計画的な準備が必要です。
まず、管理職の業務を「自分しかできない業務」と「部下でもできる業務」に分類します。「部下でもできる業務」を洗い出し、それぞれに「誰に、いつまでに、どうやって委譲するか」を計画します。
委譲のプロセスは「見せる→一緒にやる→やらせる→任せる」の4段階です。このプロセスには時間がかかりますが、一度委譲が完了すれば管理職の時間が恒久的に確保されます。
岐阜市の金属加工メーカーの課長は、自分の業務を棚卸しした結果、20項目のうち12項目が「部下に委譲可能」と判断しました。6ヶ月かけて12項目を3名の部下に委譲した結果、自分のプレイヤー比率が85%から55%に低下。確保されたマネジメント時間で1on1と目標管理を始めたところ、チームの生産性が20%向上しました。
アプローチ3:「マネジメント業務」を評価項目に組み込む
管理職の評価基準に「マネジメントの質」を明確に組み込みます。プレイヤーとしての成果だけでなく、部下の育成、チームの目標達成率、1on1の実施率——これらをKPIとして設定し、管理職の報酬に連動させます。
「売上目標を達成しても、部下が育っていなければ高評価にはしない」——このメッセージを経営者が明確に発信することで、管理職の意識が「自分の成績」から「チームの成績」にシフトします。
名古屋市の商社では、管理職の評価を「個人業績50%:マネジメント業績50%」の比率に変更しました。マネジメント業績には、部下の目標達成率(20%)、1on1の実施率(10%)、部下の成長度評価(10%)、チームの離職率(10%)が含まれます。この変更後、管理職がマネジメントに費やす時間が明らかに増加しました。
アプローチ4:「マネジメント補佐」の役割を設ける
管理職1名ですべてのマネジメント業務を担うのではなく、「マネジメント補佐」としてサブリーダーやチームリーダーの役割を設けます。日常的な業務の進捗管理やメンバーのフォローはサブリーダーが行い、管理職はより戦略的なマネジメント(目標設定、評価、人材育成計画)に集中する。
豊橋市の食品メーカーでは、各部門に「サブリーダー」を1〜2名配置し、管理職のマネジメント業務の30%を分担させています。サブリーダーは管理職候補としての育成ポジションも兼ねており、将来の管理職不足への備えにもなっています。
アプローチ5:「管理職の時間割」を設計する
管理職の1週間のスケジュールに、マネジメントの「ブロック時間」を設定します。毎週月曜日の9〜11時は「マネジメント時間」として、1on1、目標の進捗確認、チームの課題検討に充てる。この時間は原則として他の予定を入れない。
「時間がない」のではなく「時間をつくっていない」のが問題です。マネジメントの時間を先にカレンダーに入れてしまうことで、物理的にマネジメントの時間を確保します。
静岡市の計器メーカーでは、管理職全員に「毎週金曜午後はマネジメントタイム」を義務化しました。この時間に1on1、評価面談、部下のキャリア相談を集中的に行います。管理職からは「金曜午後があるから、マネジメントを後回しにしなくなった」という声が上がっています。
プレイングマネージャー問題解消の成功事例
事例:浜松市の精密部品メーカー(従業員100名)
3年間のプレイングマネージャー問題解消プロジェクトの成果を紹介します。
1年目は、管理職8名のプレイヤー比率を測定(平均82%)。業務の棚卸しと委譲計画の策定。サブリーダー制度の導入。2年目は、プレイヤー比率の目標を65%に設定し、四半期ごとにモニタリング。マネジメント評価の導入(個人業績50%:マネジメント50%)。管理職向けマネジメント研修の実施(四半期に1回)。3年目は、プレイヤー比率が平均52%に到達。全管理職が月2回以上の1on1を実施。管理職の残業時間が月平均42時間から22時間に減少。
3年間の成果として、管理職の残業コストが年間約500万円削減。チーム全体の生産性が25%向上。部下の「上司のマネジメントへの満足度」が5段階で2.5から4.0に向上。管理職の離職・休職がゼロに。若手社員の離職率が15%から6%に改善。
社長は「管理職が自分で手を動かすことを美徳とする文化を変えるのは簡単ではなかった。でも、管理職がマネジメントに時間を使うようになって、チームの力が目に見えて上がった。結果として、管理職個人が頑張るよりも大きな成果が出ている」と振り返っています。
プレイングマネージャー問題は、東海地方の中小企業に共通する構造的な課題です。「自分でやったほうが早い」という誘惑を乗り越え、「部下に任せて育てる」という長期視点を持てるかどうか。これは管理職個人の問題ではなく、組織として「マネジメントを大切にする」仕組みと文化をつくれるかどうかの問題です。東海の企業が、この構造を変えていく一歩を踏み出すことが、組織全体の成長につながると確信しています。
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